第1章 なんか目が笑ってないけど
お化粧室を出ると
暗がりの廊下にソファーが2つ。
そこに腰掛ける彼が腕を組んだまま
俯いていた。
「お待たせ、しました」
と近くに駆け寄っても反応がなく
覗き込むと目を瞑って
小さな寝息を立てる。
初めて会ったけど、なんとなく
仕事の出来る人なんだと思う。
最初の印象の良さ、気の遣い方、
スマートな振る舞い、
さぞかし多くの女性を
知っているに違いない。
「…ん、」
自分の揺れに目を覚ました彼が
顔を上げると視線があった。
「あ、れ、ごめん、俺寝てた?」
「はい、お疲れなんですね」
「…て、顔ビシャビシャじゃね?」
「え、拭きましたよちゃんと」
「いや、化粧はどこよ」
「え、気にします?」
「あんたすげえな」
その端正な顔立ちで発する
“あんた”には違和感があった。
「櫻井さんそんな風に話せるんですね」
「なに?意外?」
「はい、全力で意外です」
「はは、いいじゃんギャップ、」
「自分で言います?でもいいと思います
つまんない人、だと思ってたか、」
ぐ、っと両手で自分の口を塞いだ。
い、いけない…あまりの話しやすさに
初対面にも関わらずだいぶ失礼なことを!
「言うね、嫌いじゃないよ、そういうの」
ネクタイを緩めて言ったその言葉に
意味なんてないはずなのに
妄想族で変態(もう自分で認めます)な私は
その爽やかなシャツの下に見え隠れする
白い綺麗な肌にまたドキドキさせられる。
世間の女子を生殺しにする気かこの人。