第5章 腹ぐ……いえなんでもないです
「…ま、まあ、すぐに、
ってわけじゃないんだけど」
沈黙する空気に耐えられなくて
そんな事を言ったりして。
新聞から目を離さない彼が
「で、久しぶりに会った鴨に
トキメいたりするんでしょ?」
と意地悪を言った。
「し、しない、しません、断じて!
櫻井さんにしかトキメキません!」
なんだ、ヤキモチなんて
可愛いところもあるんだ、と
その気持ちにバチがあたったのか
「やめて、トキメいてもらっちゃ困る」
とバッサリ。
ひ、ひどい。
わかっているけど、付き合ってるのに
こんな言われようってない!
彼にトキメかなくて
誰にトキメけばいいっていうの!
「…そ、そんな冷たいこというなら
カモさんのとこ行っちゃうもん」
櫻井さんがその手に出るなら
私だって私だって。
彼に対抗する私に
眼鏡の下から愉しむ視線が
「行っちゃうの?カモさんとこ」
と言葉を投げる。