第5章 腹ぐ……いえなんでもないです
「だって櫻井さんが」
「俺が?」
「……だって櫻井さんが」
「俺が、悪い?」
「……悪く、ない」
「はは、頑張りなよもう少し」
よいしょ、と
ソファーから腰を下ろし
正座する私の前にあぐらをかいた。
「いいよ、行っておいで、
カモさんとこ」
「…え、」
「許してあげるから
俺に物を頼む時は何するの」
「…え、」
「早くしないと、」
「わ、わ、わかりました!
やりますやりますやらせてください!」
意地悪な顔をする彼が求めるもの、
それはいつも決まっていて
私は少しずつ顔を近づける。
あと数センチのところで
目を瞑ると
「何してんの」
と止められた額。
「へ?」
「ほら、早くブリッジしながら
貞子やって」
「…え?」
「ほら得意の貞子さん」
わくわくした表情を見せる彼に
イエッサー、その言葉を。
彼にキスでおねだり、
とかいうオチを期待した私が間違ってた
とため息をつく。
貞子をしようと立ち上がった
私の腕を握った彼が
「もう、断わればいいのに」と笑って
「今日は帰す気、ないよ俺」