第3章 気温が下がったのは気のせいかな
つうか、と不満そうな彼が口を開く。
「その櫻井さん、なんか仕事っぽい」
「え?いいね、って言ってたよ?」
確か、初めて会ったあの日
『櫻井さん、悪くない』とかなんとか
言ってたから、
だからずっとこの呼び方なのに。
「…まあ、そうだけど
なんか先に進めない、っつうか」
"先"その言葉に胸が高鳴る。
「………はは(な、なに食事を前にすると
この人は可愛くなるんだろうか)」
可愛い表情からまたニヤリ、と笑って
体を前のめりにさせた彼が
「呼んでみ?翔って」
「え!?いや、それはまださ、
は、はは早いっていうかまだその」
「そんなガキじゃねえんだから」
「で、でもそういうのはまだ」
「時間の問題?じゃあそれもやめた
夜まで、我慢しよ」
「…が、我慢って(よ、夜って)」
お待たせ致しました、
と定員さんが料理を運んでくる。
定員さんが去った瞬間、
うっまそ!と声を漏らす彼。
私をキラキラした目で見て
ね!と笑う。
「………、」
頭のメモ帳に油性ペンで殴り書き。
『櫻井さんに食べ物を与えれば萌える』
このペペロンチーノを一口与えたら
尻尾を振って喜んでくれるかもしれない、と
妄想が止まらない私に
「顔、」
と注意したその人が案の定
それも旨そう、と
またむふふ、な妄想が始まった。