第3章 気温が下がったのは気のせいかな
「やべえ、決まんねえ」
お店に入って15分。
「…櫻井さん、私もうお腹空いたよ」
「え、もう決まったの?早くね?」
「…いや、何を悩んでいらっしゃるの?」
「これも食べたいけどこっちも食べたい」
1人1つずつあるメニューの
自分が手にする方を私に見せて
指を指す。
"食べたい"と口を尖らすような仕草に
初めて見る優柔不断な彼が
「ええい、どっちも頼んじゃえ」
と言った私に目を丸くした。
「…え、何、」
「…いや、ヤバイ、俺の願いを叶えてくれた
と思って感動した」
そう言って満足そうにニッコリ笑う彼、
すみませーん、と元気に定員さんを呼ぶ。
「こっちのペペロンチーノと、ペスカトーレ
あと、ピザのクアトロお願いします」
頼み終わった彼はニコニコ楽しそうで
「…どうしたの?」
「え?何が?」
「顔、私みたいだよ」
ユルッユルです、そう教えると
マジで?と顔を両手で覆う彼。
「…や、楽しみだね、パスタ」
「……っふ、嘘、それで?」
「嬉しくなんない?飯食う時。
俺ワクワクすんだよね、」
伏し目がちに、ふふ、と笑う彼に
私もつられて笑ってしまう。
「そう言われると確かにそうかも。
今初めて嬉しいと思った」
私の嬉しい、はたぶん
彼のおかげだけど。