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【文スト】『人間』になる瞬間。

第1章 〔蛇〕の異能力者


強張った空気が漂い続けている。あと少しでどちらかが足を踏み出そうとした、其の瞬間だった。
心地の佳い靴音と共に、鼻歌混じりで『あの男』が帰ってきたのだ。

「〜♪……おや、国木田君。拳銃なんて構えてどうしたんだい」

一同の視線が彼に向いた。無論、女も其の男の方を向く。
茶色がかった黒髪に、砂色の外套。180糎以上ある細身の長身からは、すらりとした長い脚が綺麗に映っている。

彼は女の存在に気付くと明るい赴きで、彼女の居る方向へ歩き出した。
女の前でプロポーズをするかの様に片膝を着き、其の白く綺麗な手を取る。其の瞬間、一気に窓際が眩しくなり異能蛇たちが消える。彼女の異能が太宰によって『無効化』されたのだ。
満を持して太宰が口を開く。二人の視線は一本の線で繋がっているようだ。

『是非私と心中して頂けないだろうか!』

しばらく固まっていた彼女だったが、次第に表情が緩んで、口に手を添えて笑っている。

「あははっ……面白い。私に心中をしようと云うなんて、なかなか居ないぞ。…名前は?」

「太宰治だ。お姉さんは?」

『夜色悪塗』。そう、紅色の唇が太宰に云った。すると、悪塗は取られていた手を太宰からさらりと払い、其の横を通って国木田たちと向かい合う形に立った。

「貴様、悪塗と云ったな。武装探偵社を奇襲した理由を答えろ」

拳銃の銃口を悪塗に向けながら、警戒態勢を取っている国木田。

「奇襲?…私はお前達と殺り合おうなんて思っていない。今日此処へ来た理由は、お前たち探偵社がどんなものなのか見たかっただけだ」

悪塗は余裕どころか笑みを浮かべて社員を横切っていく。談話室の近くに居る敦と鏡花は、異能力を発動しかけていた。

「何でも武装探偵社は今、『蛇を操る異能力者』を探しているのだろう?ほら、ターゲットは此処にいるぞ?」

それらの台詞は先程より笑みが怪しくなり、声が一段階高くなっている。

「……私はおそらく、この場の数人は捕らえられるだろうよ」

其の時、敦は悪塗の首辺りから妙に赤光りしたものを見つける。其れは虎の目で凝視しなくてもよく判るモノだった。
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