第1章 〔蛇〕の異能力者
____蛇だ。
全身は黒く、悪塗の操る蛇達とほぼ同じ造形で、人の首に巻ける様な大きさの蛇。今は敦達、武装探偵社員を見ている。
「お前、こいつに気づいたか」
悪塗はそのまま視線を敦に向ける。
敦は厭な危機感を覚える。何か触れてはいけないモノに触れてしまったのではないか…。コレと云った理由は無いが、一目見ただけで感じるのだ。何かがほかの蛇と大きく違うと。
悪塗は首に居る蛇を、肩に乗った小鳥のように撫でている。
其の光景が異様に目立つ。
「こいつは『濁』と云う。謂わば私の相棒だ」
ダク、と云われた其の蛇は敦と目を合わせる。まるで人間と同等の思考力や言語があるかのような雰囲気だ。
濁の大口が開いた。
「なぁ悪塗。これからコイツ等どうする心算なんだよ」
蛇が喋ったと一同は軽い衝撃を覚える。だが、あれも異能生命体だと思うと少しは頷けてきたようで、腑に落ちた顔をしている。
悪塗はそんな探偵社員を他所に濁との会話を続けていた。
「…さぁな。まぁ、いつものように、気の向くままに動けばいいんじゃないか?」
悪塗の後ろから強い風が吹いている。其の長髪を抑えようと、色白な手を耳辺りに宛てがった。
長い赤髪を揺らした綺麗なさまは、或る男の心を染めるには十分過ぎる程で。
唯一無二の異能を持つ其の男は見惚れているしか、他無かった。