第1章 〔蛇〕の異能力者
今、探偵社は特務課からの依頼案件を達成するために、情報集めや電話での聞き込みなどを行う活気でいっぱいだった。
ふとサロペット姿の少年・賢治が、真っ青で、綺麗に晴れた空を見上げていると、
「うわ〜あ…!」
と何かに驚いている賢治の声が皆の耳を掠めた。何事か、と社員達は窓の向こうに視線を集める。
すると、探偵社の窓は『真っ黒い何か』で覆われ、外からの光を遮断した。
其れはよくよく見ると、『蛇の鱗のような模様』が有ったように思う。
突如として表れた黒一面に騒然とする探偵社一同。
そんな中、一つの窓に日の光が差し込んで黒い塊が一つ、窓縁から中に入ってくる。
其の黒い塊は、巨大な『蛇』の形をしていた。
次第に真っ黒い蛇の大口が開いていった。赤い口内が広がり、ワインレッドような髪色の女が少しずつ明確になって現れた。
大蛇から現れた女の容姿は感嘆するほど綺麗で整っていて、赤髪のポニーテールはさらさらと一本一本際立ち、よく其の女に似合っていた。
女は漸く口を開く。
「お前らが武装探偵社の人間か」
「……貴様の目的は何だ」
すかさず国木田が異能で造ったばかりの拳銃を向けながら、女に問う。
だが、女は怯みも怯えもせず変わらぬ調子だ。むしろ、余裕の微笑みさえある。
「銃か。私を死に追いやれない其れで、怯むとでも?」
銃では死なない、か。
先程の言動や行動を見るに、女はほぼ確定で、探偵社員の大半と同じ……『異能を持つ者』だろう。異能の種類はさまざま多様多種で、虎に変身できる異能、手帳から物を作り出せる異能、空腹時のみ怪力になれる異能、異能を制御できる異能……などがある。
――そしてこの探偵社には、『触れたモノの異能を無効化する異能』を持つ者がいる。
異能力者と云うことならば、拳銃程度で死なない者など数多くいる。
与謝野女医が口を開いて女に尋ねた。
「アンタ、その能力……蛇を操る異能じゃないかい?」
「…嗚呼、そうだとも。私が、蛇の異能力者だ」
――こいつだ。自分たちが今、必死になって捜している異能力者は、こいつなのだ。
そうだと分かれば、より警戒して相手しなければいけないと探偵社員は思う。何故なら目の前にいる細身の女は、政府から追われている強力な異能力者で『人殺し』だからだ。
何時、どういった攻撃が来るかも読み取れない今、皆は身構えている。