第1章 さよならも言えずに
そう思うと身体から力が抜けてふっと自然と笑顔になれた。
ずっと1人だった、この数年間。
誰かと話せて、こう言ってもらえて、私の中で溜まっていた負の感情が少し軽くなった気がした。
「話は大体分かった。
けどお前さんこれからどうするんだ?」
これから…か。
何も考えずに飛び出してしまった。
でも彼の所へ戻る気はないし、もう戻れない。
あの場所に私は必要ないから。
『彼の所には戻れない…』
「戻らない方がいいのは明白だろ。
それに戻るって言った所で俺が止めるけどな。
そこで、まっ、行く場所も宛もない#NAME1#に提案があるんだが、その提案をのんでもらう為にもう1人2人話を聞いてもらわなきゃならない人がいるんだよなぁ。
って事でミツ」
「はぁ?!俺!?」
「とりあえず、万さん呼んできてくれ」
「はぁ…わかったよ、行ってくる」
「おー、流石話の分かる奴は違うねー。
任せたぜ、ミツ」
…バン…?
あだ名だろうか…なんか懐かしい気持ちになる名前だ。
あの人も彼にそう言われていたなぁ…。
ダメだ、彼の事は考えないようにしよう。
それより提案とはなんなんだろうか。
ボーッとミツさんと呼ばれた彼が出て行った扉の方を見つめる。
「大丈夫、何にも心配はねぇよ」
そう言って頭にポンと手を乗っけられる。
別に疑っている訳ではないんだ、大和の事は信じてる。
胡散臭い所や人を揶揄ったりするけど、真面目で頼れる奴だって知ってるから。
「おー、来てもらったぞー。
たくっ、ちょうど事務所に居てくれたからいいものを…人使い荒いぜ、大和さん」
暫くしてミツさんと呼ばれている人が戻って来た。
どうやら誰かを連れてきたようだ。
「急に三月君から呼ばれて来たけど、俺に何か用かい?」
え…この声…。
バッと反射的に立ち上がる。
周りの人達が驚いているけど私はそれどころじゃない。
だってこの声はーーーーー。