第1章 さよならも言えずに
扉の方を凝視する。
扉から出てきたのは…私の知っている人物だった。
「おや?お客さ……愛音…っ!?!?」
やっぱり…やっぱり万里だっ!
思わず駆け出し、懐かしい姿のままの万里へと飛び込む。
少し後ろによろけたけど、ちゃんと受け止めてくれた。
あぁ、この匂い、間違いない、本物の万里だ。
『万里っ…万里…』
「愛音…なんでここに…」
抱き着いてきた人物に驚きが隠せない万里。
聞いても涙を流しながら抱き締めて口を開こうとしない彼女を見て、周りを見渡すと、大和が驚きの表情のままこちらへ近付いて来ていた。
「万さん、万さんも愛音と知り合いだったんですか」
「え、あぁ、まぁ、知り合い…かな。
大和君も?」
「あぁ、俺は幼馴染みたいなもんです。
ここ数年連絡取ってなかったんですけどね」
「とりあえず…愛音、一旦落ち着いて椅子に座ろうか。
みんなも座って、話があるんだろう?」
万里に頭をゆっくり撫でられる。
あぁ、感動の再会ですっかり忘れていた。
ここが何なのか分からないし、なんで万里が居るのかも分からないけど、一先ず万里の言う通りにするのがいいだろう。
焦らなくてもここに万里が居るし、きっと大丈夫。
そう思い、ゆっくりと万里と一緒にソファに座る。
大和たちも思い思いの場所に座ったようだ。
「さて…じゃあ話してもらおうか、きっとここに居る愛音が絡んでいる話なんだろう?」
「流石万さん、話が早い。
まぁ必要な説明以外省きますけど、なんか一緒に住んでた奴のとこ色々あって出てきちゃったみたいで。
行くとこないんで、万さんや社長の許可が下りるならコイツが部屋見つけるまでこの寮に住まわせてやってくれないかなと思って万さんを呼んだんです」
え、私がこの家に住む?てか、ここ寮だったんだ…。
あと社長って…一体ここは…。
とりあえず話を振られるまで大人しく聞いていよう。