第1章 さよならも言えずに
先程からびしょ濡れの私を、通り過ぎる人達が色々な目で見て来る。
まぁ、びしょ濡れの女がぼーっと突っ立って居たら、頭大丈夫か、って思うよね。
はぁ…と1つため息を吐き、唯一の所持品である携帯を見ると見事に電池切れのようで、うんともすんとも言わない。
おい、携帯、役に立たないな、なんて心の中で暴言を吐く。
これからどうしようか。
そこまで考えた所で、ぶるりと身体が震えた。
あぁ、雨に打たれ過ぎて身体が悲鳴を上げている。
早々に室内に入りたい所だが、お金もないし、びしょ濡れの女が入ってきたら流石にヤバい。
「ねぇ、オネーサン、びしょ濡れだけど大丈夫?」
ん…?誰かが話しかけてきた。
顔を上げると、そこにはチャラい、の一言で片付けられそうな男が1人立っていた。
「うわぁ、遠目から見てたけど、やっぱすげぇ美人!
なに、家出?行くとこないなら俺とあったかい所行こうぜ!」
そう言って肩を抱かれる。
お兄さん、服濡れちゃいますよ、そう思ったが、この先の展開に期待し過ぎているのだろうか、気にしていないようだ。
あぁ、別にこのまま着いていってもいいかも知れない。
私にはもう失う物なんてないし、この冷えた身体を温められるのならこの男に抱かれるくらい安いものだろう。
疲弊した心と身体の私には正常な判断は出来ないし、するのにも疲れた。
グイグイと肩を抱かれてそのまま身を委ねていると、いきなり強い力で抱き寄せられた。
え、なに痛いんだけど、そう訴えるようにして顔をあげると、そこには見知った顔が。
二階堂大和の腕の中に居た。
「はいはい、ごめんねお兄さん。
コイツ俺の連れなんだわ」
「は…っ?!ちょっ、いきなり横から出て来てなんだよ、お前!
この子は俺と楽しいコトすんの!だから邪魔すんなや」
「おーーーい、ヤマさん、なにしてんだよー」
「二階堂さん、勝手な行動は控えて下さい」
「って、大和さん、その子どーしたんだよ!」
「Oh、ビューティフルガールがびしょ濡れでーす」
「こ、これ使って!俺のタオルで申し訳ないけどっ」
「大和さんの知り合いの女性なのかな」