第1章 さよならも言えずに
『ありがとう、万里…反対しないでくれて』
「ん…?あぁ、別に俺はお前がここに居る事に反対はしてないよ。
あの人も突飛な発想や発言をするから困ったりするけど、社長の目は本物だ。
だから俺も付いて行ってる訳だしね。
まぁ、俺がどうしてここに居る経緯に至ったのとか、お前がアイツの所で何があったのかだとか…色々話したい事は山積みだけど、ゆっくり時間を使って話して行こう。
それに、さっきのお前の話聞く限りじゃ、アイツも少し頭冷やした方がいい。
だから愛音は何も考えずに寝なさい。
明日ちゃんと起こしにきてあげるから」
そう言って万里がまた頭を撫でてくれた。
本当…昔から万里は優しい。
この優しさに何度も救われてたんだ。
ありがとう、万里。
『うん、疲れたからもう休む…お休みなさい、万里』
「あぁ、ゆっくり休めよ」
ニコリと笑った万里が扉を閉める。
そして一気に孤独感に苛まれた。
いや、いつも彼を待つ時は1人だったんだ、今更寂しくなんてないはずだ。
…きっと今頃彼はまだ寝ているんだろうか…。
それとも起きてるのかな…。
起きてたなら私を探して…くれる訳ないよね。
だって私の存在は只の家政婦兼セフレ…みたいなもんだったんだもんね。
でも…それでも、急に居なくなったら少しは寂しく思ってくれる…かな…?
なんて期待してしまうなんて…本当に私は馬鹿だなぁ。
1人になると色々負の感情に支配されてしまう。
どんどん気分が落ち込んで……あぁ、なんかまた泣いてしまいそうだ…。
コンコンコン…
『…ふぇっ…!!』
な、なんの音…
「あーー…すまん、俺だけど…」
どうやら扉をノックされた音だったようだ。
そしてこの声は大和…?
急な音に心臓が飛び跳ねて涙も一緒に引っ込んでしまった。
「今大丈夫か?充電器持ってきたぞ」