第1章 さよならも言えずに
はぁ…と頭を抱えた万里が社長さんに問いただす。
「社長、話が唐突過ぎます。
コイツをアイドルになんて…何がどうなったらそんな話になるんですか」
「だって、この寮はアイドル育成の為の寮だからね。
それなら彼女がアイドルになれば問題ないだろう?」
「そ、そうゆう問題ではっ」
「僕は彼女に可能性を感じたよ。
だからこそ僕は彼女を輝かせたい。
愛音さん、君はどうだい?」
私が…アイドルに…?
歌うのは好きだ…だけどそれだけでアイドルになれる訳がない。
彼と同じステージに立つ事なんて…出来るはずがないんだ。
『…私なんかにアイドルが出来る訳がないと思います…。
ただ歌う事が好きだけの私が…生半可な覚悟で出来るとは思いません』
「うん、そうだね。
でもね、ここにいる彼らもアイドルになる為、必死に頑張っているんだよ。
それぞれ、歌うのが好きだったり、踊るのが演技する事が好きだったりしてこの道を進んでいるんだ。
彼らもここで学び高め合って成長していっている。
だから愛音さんもここで一緒に学ばないかい?
彼らを見て、アイドルに触れて、学んで、それでも目指したくない、無理だと思ったら辞めたらいい」
『…お世話になっても…いいんですか…?』
「勿論さ!
まっ、アイドルの卵の時は事務仕事だったりマネージャー業を手伝ってもらいつつ、君もレッスンする事になるけどね」
『分かりました…、その話受けさせていただきます』
「よしっ、それじゃあ成立だね!
桜庭 愛音さん、ようこそ小鳥遊プロダクションへ」
『ありがとうございます』
ガバッと誰かに…言わずもがな大和だけども…大和に手を肩に回される。
「よっ、おめでとさん。
これでお前さんも俺たちの仲間って訳だ」
『え…大和、アイドル目指してたの…?』
「いやいやいやっ、今更すぎるだろっ!
社長の話聞いてたよな??」
『聞いてたけど…大和がアイドル…。
え…似合わない…』
「いや、そんな絶望したみたいな顔で言うなよ…。
流石のお兄さんでも傷つくわ…」