第15章 2人の未来
綾斗side
「にいさ・・・お願い・・・目を覚まして。」
僕の服を脱がせ、ゆっくりと身体を宥めていく。
まだ少し正気はあるはず。
もし、もう手遅れなら既に僕は気を失っている。
兄さんがそうしないって事は、まだ、心のどこかで本当の感情が制御しているってことだ。
「綾斗・・・俺は絶対離れない。」
どうしたらいい。
兄さんを説得するにはどうするのが一番いい?
「俺は綾斗の兄なんだ。なんでも知ってる。だから離れていいはずがないよね?」
「・・・違う・・・」
「は?」
「違うよ・・・あんたは・・・僕の兄さんじゃない・・・」
そうだ・・・
僕の本当の兄さんは・・・
「皇さん・・・目を覚まして・・・僕の本当のお兄さん。お願い・・・」
「・・・兄さんって呼べって・・・言ったよね?」
急に首元に手が回る。
次こそは間違いなく殺される・・・
少しずつ力が強まってきた。
「うっ・・・こう・・・さん・・・僕は・・・絶対に1人にしないから・・・ずっと皇さんの・・・兄さんの弟だからっ・・・」
「うるさいっ!やめろ!」
「また・・・昔みたいに・・・暮らそう?・・・あの写真みたいに・・・」
先程のアルバムに指を指し兄さんの目線を向ける。
兄さんの手の力が弱まってきた。
「昔・・・みたいに・・・?」
「うん・・・でもその為には・・・兄さんが強くならないと・・・ずっと弱いままじゃ駄目だよ・・・だから・・・」
隙を見て兄さんの下から這い出る。
少し喉が痛いのを我慢して、アルバムから一枚の写真を抜き取った。
2人で笑顔で水遊びしている写真だ。
僕はまだ小さくて兄さんに抱っこされている。
「病院に行こ?僕も付いてるから。」
兄さんにその写真を手渡すと、涙をボロボロと流し始めた。
目の色が戻っている。
僕の大好きな兄さんだ。
「綾斗・・・ごめん・・・約束したのに・・・また暴走しちゃった・・・」
「いいんだよ・・・兄さんは悪くない。」
僕はそっと兄さんを抱きしめると胸の中で声を上げて泣き出した。
ずっと苦しかっただけなんだ。
辛かっただけなんだ。
ただ、それだけ。
後ろの扉が開くのが見えたがすぐに父さんだと分かり、しっ、と人差し指を口元に当てると安心したように扉を閉め出ていった。
暫く、兄さんが落ち着くまでこうしていよう。