第14章 本音と嘘
また来てしまった。
綾斗にどんな顔して会えばいいんだ?
別れようと言われて曖昧のままでいる。
気まずくなるのは嫌だが、綾斗の体調も気にかかるし何より縛りから解放してやりたい。
よし、いつも通りに話すしかない。
「よ、綾斗。」
勇気を持って病室に入ると、綾斗は驚いた顔をしていた。
なんで?と言いたそうな顔をしている。
今は誰もいないようだ。
「お見舞いに綾斗が好きなお菓子買ってきたけど、食べる?ていうか、食べていいのか?」
まだ、驚いた顔をしていて何も答えない。
「どうした?食べないのか?」
少し間を置いて、ノートに字を書き始めた。
『食べる。ありがとう。』
「どういたしまして。ほら、クッキー。ここの店のやつ好きだったよな?」
うん、と頷き俺から手渡したクッキーの入った小包を綾斗が受け取り袋を開ける。
まだ動揺しているのか目を合わせてくれない。
昨日の話、しっかり付けないと良くないよな。
まずはそこからか。
「昨日の話だけどよ、率直に言えば俺は別れたくない。というより、こんな形では納得いかない。お前も本当は別れたくないんだろ?」
両手に力が入り、クッキーの小包がクシャッと縮まる。
唇も噛み締めてどこか我慢しているようだ。
「綾斗の本音を聞かせてくれ。それから、こうなった経緯も。どうして自殺なんか?」
そう尋ねても綾斗は首を横に振った。
まだ、素直にはなれないんだろう。
こんなにも辛そうなのに放っておけない。
もうこれ以上はやめておこう。
また違う日にしよう。
綾斗自身も精神的に追い込まれると余計にストレスを感じてしまう。
「ごめん、今日はもう帰るよ。・・・体調はもう大丈夫なのか?」
『身体は何ともないけど、声は相変わらずだよ。』
「そっか。・・・早く綾斗の声が聞きたいよ。じゃあな。」
こんなにも辛そうなのに、俺みたいな諦めの悪い男・・・うんざりしてるだろうな。
諦めきれるはずがない・・・初恋なんだ。
本気で好きなんだ。
でも綾斗がこれ以上に悪化するのであれば、その時は・・・