第13章 矢野綾斗という男
よく考えたら、綾斗が傷を付けて来ることは朝だった。
確実に学校で付けられたものでは無い。
そう考えると家でしか考えられない・・・
やっぱり虐待・・・
でも、綾斗は違うと言っていた。
それは信じている。
じゃあ一体誰が?
普段は笑顔で皆に優しい。
それが余計に周りを虜にしてしまうのが綾斗だ。
俺という彼氏がいながら、山本さんや後輩の松村君までも虜にしてしまった。
正直、不安で仕方がなかった。
いつ俺は捨てられるだろうかと。
それでも綾斗は笑って、俺を安心させるように声をかけてくれた。
だから、俺も信じていた。
ずっと一緒にいれる。
人を安心させる綾斗の笑顔はその傷と引替えに消えることが多かった。
無理やり笑顔を作り、何かに脅え耐えていた。
俺も彼氏として力になりたかった。
でも綾斗は何も教えてくれない。
全て自分で背負い込み、周りには絶対に迷惑をかけないようにしていた。
秘密事が多かった。
二人でいる時は本音で話してくれている様だったが、あまり家族の事には触れて欲しくなさそうだった。
「綾斗・・・俺のこと好き?」
「急にどうしたの?(笑)」
「・・・特に理由はないけど・・・」
「好きだよ。大好き。」
その言葉だけで充分だ。
これ以上は強欲になっては行けない。
一緒に過ごせてるのだからいいじゃないか。
自分にそう言い聞かせ、なるべく綾斗の秘密事には触れないようにしていた。
それが幸せへの一番の近道だと思っていた。
けどそれも・・・
一瞬で消え去ってしまった。