第13章 矢野綾斗という男
「真織、最近元気ないな。学校で何かあったか?」
父さんが入院して1ヶ月が経とうとしていた。
お見舞いに来ると、父さんにすぐに見抜かれてしまった。
引越しまであと半年もない。
「・・・真織、父さんのせいで我慢するのはやめなさい。学生時代やれることはしておかないと後悔するよ。」
「いや、どうせ叶わない夢だから。諦める。」
「言ってくれれば協力するよ。父さんにできることならね。」
「ん・・・我儘は言えない。」
「子供の我儘を聞くのが親の役目だ。・・・いつ聞け無くなるか分からないから、せめて今のうちに聞かせてくれないか?」
「縁起悪い事言わないで。・・・これは・・・ただの独り言だから無視して。」
俺は父さんがいるにも関わらず、全てを口に出して話してしまった。
父さんは目を瞑ってうんうんと頷いて聞いてくれる。
無視してと言ったのに。
「せめて・・・自分の気持ちを伝えれたら・・・後悔はしないのに。」
「じゃあ、転入するか。その学校に。」
「はぁ!?」
父さんの思いもしなかった言葉に大きな声が出てしまった。
病室に響き渡ってしまった為、頭を深々と下げて謝る。
「父さんも今の母さんに会うためだけに会社辞めたことある。ちなみに一目惚れ。」
「なにやってんの・・・」
「でも、そのおかげで今の真織がいる。・・・人生何でも挑戦してみないと分からないぞ。・・・どうだ?」
「・・・でもそんなの母さんにも迷惑・・・」
「父さんから言っておくから。それに、母さんも同じこと言いそうだけどな。」
父さんは本当に滅茶苦茶な人だ。
すぐに突っ走っていく。
けど、そこは俺も似たのかもしれない。
「うん・・・俺、転入する。」
「わかった。頑張れよ。」