第10章 特別だから・・・
松村くんなの?
でもどうして・・・
「綾斗先輩。俺だったら絶対に悲しい思いはさせません。毎日笑わせてみせます。幸せだって思わせてみせます。だから・・・俺と付き合ってください。」
力強く抱きしめられる。
この温もり・・・久しぶりだ。
つい、好きなのかもしれないと錯覚してしまう。
優しく話しかけられ、抱きしめられ・・・
保健室まで運んでくれたり、体調悪いのを心配してくれたり。
「松村くん・・・」
「先輩・・・出会ったときから好きなんです。一目惚れなんです。」
自然と涙は止まっている。
「だめですか?」
「・・・僕が戻ってくるまでずっと待ってたの?」
「はい。心配で。」
「・・・松村くんって優しいんだね。保健室に運んでくれたり、荷物も持って行ってくれたんでしょ?確かに、松村くんと付き合う人は幸せかもね。」
松村くんは何も話さなくなった。
「松村くん?」
僕から離れ、前に立つ。
何故か悲しそうな表情だ。
「やっぱ、俺じゃダメみたいですね。」
「え?どうして・・・」
「保健室まで運んでくれたのも、荷物を持って行ってくれたのも柊先輩ですよ。俺は・・・何も出来なくてただ見てることしか・・・」
真織が・・・僕を?
「行ってください。さっき綾斗先輩の荷物を持った先輩と保健室ですれ違ったんです。まだ近くにいると思います。」
「松村くん・・・ごめん・・・」
「あの・・・そろそろ俺も限界なんで・・・早く行ってください。好きな人にみっともない姿・・・見られたくないんで。」
「うん・・・」
僕は椅子から立ち上がり、教室を出ようと教室を飛び出した。
足に何か当たった。
前に真織とデートした時にお揃いで買ったキーホルダーだ。
もしかして、さっきまでいたのかな?
だったらまだ間に合うかもしれない。
僕はそのキーホルダーを握りしめ、全速力で下駄箱に向かった。