第10章 特別だから・・・
「はっ!」
「あ、起きたのね。今起こそうと思っていたの。」
保健室?
いつの間に寝てしまったんだろう。
体操服のままだ。
保健の先生が額に手を当て熱を確かめる。
「うん、引いたみたいね。他に体調悪いところはない?」
「もう平気です。」
「よかった。そろそろ着替えて帰りなさい。もう下校の時間よ。」
「はい、ありがとうございました。」
そういえば、どうやってここまで来たんだろ。
誰かに運ばれたような。
確か記録してて。
あ!仕事・・・
迷惑かけたな・・・
「先生、僕どうやってここに来ました?」
「どうって・・・私が来た時には既にあなたがいたから・・・あ、1年生がいたわね。」
松村くんか。
お礼言わなきゃ。
僕は保健室を出て教室に向かった。
柊の声が聞こえたのはやっぱり気のせいだったんだ。
そんなはずない。
きっと僕の願望が幻聴として現れたんだ。
教室に戻ると誰もいなかった。
僕の荷物も無い。
誰か保健室まで持って行ってくれたのかな?
すれ違ったのかも。
教室には窓から夕日が差し込んでいた。
普段は白い壁もオレンジ色に染まっている。
ふと、柊の机に目が行く。
もう帰っちゃったよね。
ゆっくりと柊の椅子に座る。
僅かに温もりがある。
さっきまで座っていたのだろうか。
柊の匂いも残っている。
「柊・・・会いたいよ。また、一緒にデートしたいよ。」
『名前で呼んでくれないよな。』
柊の言葉が蘇る。
もう遅いかもしれない。
でも・・・
「・・・まお・・・」
名前を口に出すと今までの感情が一気に涙となって溢れ出てきた。
僕は泣いてばっかだ。
「まお・・・ごめんね・・・会いたいよ・・・」
体の震えが止まらず、両手で自分の体を包む。
すると温もりのせいか、さらに涙は溢れ出る。
「まおっ・・・お願い・・・戻ってきて・・・まおっ・・・っ!」
後ろから抱きしめられる。
全く背後に気づかなかった。
誰?
もしかして・・・
「ま・・・」
「先輩・・・俺じゃ・・・だめですか?」
この声・・・
松村くん?