第9章 影
これからどうしよう。
この状況がずっと続くのが良くないのは分かってる。
でも警察に相談したとしても話を聞いてくれそうにない。
母さんにも心配かけるし。
「ブクブク・・・」
湯船に浸かり考えていた。
逆上せたな。
そろそろ上がろう。
浴室から出て身体を拭く。
鏡に映る自分の顔を見ると、先程泣いたからか目が腫れていた。
「ぶっさ・・・」
あまりにも酷すぎて思わず呟いてしまった。
「綾ちゃん?いつまで入ってるの?」
「もう上がったよ。」
母さんが心配して覗いてきた。
「柊くんの布団、もう部屋に入れておいたから。」
「うん、ありがとう。」
急いで部屋着に着替え、自室に戻る。
「ただいまー。」
「おう。おかえり。」
僕宛てに送られてきた手紙と写真を見て、顔を顰めている。
怒ってる?
まぁ、自分も写真に写ってるから怒るよね。
兄さんの知り合いが写ってるの見せなくてよかった。
「柊、もう平気だから。」
「・・・これからは毎朝迎えくるから。帰りだけじゃなくて。」
「いいよ、そんな。遠回りでしょ。」
「俺がそうしたいから。」
やっぱり柊にも迷惑かけちゃってる。
僕一人でどうにかしないと。
これ以上関わらせたくない。
「平気だって・・・危害はなんも無いし。」
「本当か?」
写真から顔を上げ、僕の目を真っ直ぐ見る。
「本当は辛いんじゃないのか?本当のこと言ってくれ。」
「大丈夫だって!」
拳を握り締め「助けて」という言葉を飲み込む。
甘えちゃダメだ。
耐えなきゃ。
「もっと俺を頼ってくれ。恋人だろ?」
柊が僕を抱きしめ耳元で囁く。
「ここ数日、気づいてやれなくてごめん。ちゃんと助けになってみせるから。本当のことを言ってくれ。甘えていいんだぞ。」
「うっ・・・」
駄目だって分かってるのに。
絶対巻き込んじゃ良くない事が起こるに決まってるのに。
でも・・・これ以上辛い思いしたくない。
「・・・けて・・・」
ごめんね、柊。
「助けてっ・・・ひいらぎ・・・」
先程泣いたばかりで涙も出ないはずなのに、まだ溢れ出てきていた。
自分でも余裕がなかった事を知った。
こんなに僕は辛かったんだ。
いざ、言葉にすると気持ちは止まらなかった。
「任せろ。絶対に助けてみせる。」