第3章 波の音が聞こえる
その後、ローとアルマはフロアズルに関して細かな打合わせをした。
ローはアルマの知識量に、アルマはローの医療技術と情報力に驚いた。それぞれが得意とする分野の知識を織り交ぜながら、精製するフロアズルの薬について決めていく。
花弁、茎、根、どの部分をどのくらいの量作るのか。成分濃度はどれくらいか。抽出法はどうするのか...。
専門用語が飛び交う二人の会話を、ベポたちは3分で聞き飽きて、周りの植物を見物しながら地下一帯を散策していた。
「よしっ...!じゃあ今決めた通りに精製します。後日またいらしてください」
「あぁ。了解した」
地下をウロウロしているクルーへ声をかけるローを見ながら、アルマはどこか嬉しさを感じていた。
他人とこんなにも長く話すのは久々だった。ローは自分が知らないことを数多く知っている。言葉を交わす度に、自分の知識が増えていく。
それが新鮮で楽しくて、ワクワクなるような心地になった。
「おいお前ら。もう行くぞ」
鬼哭を肩にかけ直して、出発の準備をするロー。そんな船長にクルーは落胆の声を口々に漏らした。
「えぇ!もう帰るんすか?」
「せっかく打ち解けてきたってのに!もっとこの地下も見てたいっすよ!」
「俺、キャプテンが楽しそうに人と話してるの久々に見たよ!」
勝手を言いやがる...とローは舌打ちした。
だがクルーたちは常日頃からこうも我儘なわけではない。物事の見切りをつけるのは早いほうである。
それほどこの家が気に入ったということなのだろう。
「うるせェ。3日後にまた来るんだ。もう行くぞ」
厳しい船長に「えぇ〜!」と3人仲良く声を揃える。
そんな様子を見ていたアルマは遠慮がちにローへ声をかけた。
「あの、長居していただいても全然構いませんよ?
この前焼き菓子を焼いたんですけど余ってしまって...。それをお茶菓子にコーヒーでも飲んでいかれますか?」
「まじで!!」
「コーヒー飲む!焼き菓子も食う!」
アルマの言葉に歓喜するシャチたち。だがローは相変わらず厳しかった。
「お前ら...潜水艦の整備を忘れちゃいねえェよな?」
するとシャチ、ペンギン、ベポの顔から喜びの色がすーっと消えていった。