第3章 波の音が聞こえる
「ッス...帰ります...」
「あぁ、今日調度整備日だったわ...」
「アルマの焼き菓子食べたかったのに...」
がっくりと頭を垂れる3人。
予定があるのか、とアルマは少し残念に思った。
もっとこの人たちと話していたかった。人の賑やかさが家にあふれるなんて、こんなことはなかったから。
この心地良い時間に少しでも見を浸していたかったが、船長のローに言われればクルーは頷くしかない。
「アルマ、邪魔したな。薬の生成頼んだぞ」
ローはアルマに向き直って言った。
「はい。いい薬を作ってみせます!」
アルマの唯一の得意分野だ。堂々と胸を張った。
ローとももっと話したかったという気持ちは心の隅に隠して。
行きに来たように、長い長い階段をまた登り、こじんまりとした部屋のドアを開いた。
「帰るのか」
さっきと同じように椅子に腰掛けていたレンテは、呼んでいた本をパタリと閉じた。随分と古い本を呼んでいる。
「あぁ。邪魔したな」
「この狭い部屋に5人は店員オーバーだ。さっさと行け」
相変わらずツーンとした態度のレンテ。年上に対する態度とは思えないがこれが彼の性格でもあった。
「ちょっとレンテ!またそんなこと...」
レンテを叱ろうとしたアルマだが、ローの言葉によってそれは遮られた。
「地下の植物たちは、お前も作ったのか?」
「...当然だろ。俺ら兄弟にしかできねェよ」
「そうか...」
ローはレンテの目を真っ直ぐに見る。決まり悪くて目をそらすレンテにはお構いなしだ。
アルマはそんな二人を交互に見てオロオロする。
くまのある切れ長の目に見られると、睨まれているかのような心地になるのだ。
しかし、その目にはなぜか優しさが感じられた。
「どれも立派に育っていた。見事だった」
それだけ言うと、ローはくるりと踵を返してドアを開けて出ていった。
シャチたちもお辞儀しながら慌ててローについていき、あっという間に部屋にはもとの静けさが戻っていた。
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