第4章 ぬくもり
だが今それを言えば、ベポの不安を煽るだけだ。
「俺がキャプテンに話してくるから、もうちょい粘ってみてくれ」
「うん...分かった!」
再び作業を始めるベポとシャチを背に、ペンギンはローのいる手術室へ向かった。
「キャプテン、ちょっといいっすか?」
「あぁ。入れ」
ローの声を聞くと、ペンギンはガチャりと手術室のドアを開いた。そこには広々とした空間がある。
それもそのはず。この船内で最も大きな部屋が手術室だ。普通の病院と大差ない、もしくはそれ以上の設備がここには揃っている。
医療品やメスなどの器具は、全てローが配置している。執刀医本人が、扱いやすいようにしておくのがベストなのだ。
「どうした」
医療器具を片したり、縫合糸を整えながらローが言う。
慣れた手付きを見ながら、ペンギンは事を説明した。
「たった今、ベポのタンク整備の様子を見に行ったら、異常ありだって泣きついてきて。訳を聞いてみたら、タンクが全く吸水しないそうなんすよ。」
ローは作業していた手を止め、顔を上げた。
「確かに俺やシャチが弄ってみてもだめで...。もしタンク本体が壊れているとしたら、船大工がいないと直すのが難しいっすよね...」
「...そうか。取り敢えず俺も確認しに行こう」
「了解っす!」
タンクを操作する機械の前で、あーでもないこーでもないと言い合うシャチとベポ。その様子から察するに、もう手はかなり尽くしているのだろう。
「まだ直んねェか?」
「うん...駄目みたい。いくらやっても動かないよ...あ!キャプテン!」
ベポはペンギンの後ろにいたローの姿を目にすると、光明が差したような嬉しそうな顔をした。
ローは長身をかがめてしゃがむと、操作版をいじり始める。
起動スイッチ、吸水レバー、出力変更ボタン、一時停止ボタン...。しかしどこを押しても反応はない、一度電源を落としてから再度やり直しても見たが、吸水する気配はなかった。
「チッ...これは本体が壊れてやがるな...。今回の浮上時に圧がかかりすぎてたんだろう。ここ最近、島の船大工に点検することもなかったからな...」
もしや、と思っていたことが現実となってしまい、クルー全員ががっくりした。こうなればその道のプロに直してもらう他なかった。