第3章 波の音が聞こえる
「構わねェよ。こっちも日数は十分取る気でいたからな」
「ありがとうございます。では3、4日ほどいただきますね」
「あぁ」
ローの返事を聞くやいなや、アルマはいそいそとフロアズルを収穫するために、大きな花壇へ入っていった。
アルマが動くたびに舞う青色の花粉が美しくて、とても幻想的な世界にいるかのように思える。
シャチは向こうにいるアルマを見ながら呟いた。
「しっかし、やっぱすげェよな...。生きてる間にこんなにフロアズルを見れるとは思わなかったわ」
ベポも頷いて答える。
「そうだね。フロアズルの中にいるアルマは、なんだか倍綺麗だね...」
青く輝く世界に真っ直ぐな茶髪をなびかせる少女。
美しく、儚く、だがどことなく孤高で力強い。
温かみのある微笑を浮かべながら、花に触れるアルマに、ローはどこか懐かしさを感じた。
この懐かしさは一体何なのか...それはまだロー自身も分からないこと。
「ローさん!これくらいで足りますか?」
アルマが手に一杯のフロアズルの花を抱えて戻ってきた。眩しいほど純粋な笑顔を彼に向けるアルマは、どうしても18歳には見えない。
「あぁ。十分だ。これだけあってどのくらい薬が作れる?」
「そうですね...花のどの部分を使うかにもよりますよ」
「用途によって使い分けたいんだが、どの部分がそれに適しているかが分からねェ。お前の知識を貸してくれるか?」
「えぇ、もちろんです!」
嬉しそうにアルマは答えた。
__『人の役に立つ』というのが自分のモットーだ。
フロアズルを売ることで、病気や怪我で苦しんでいる人の役に立てる。この知識で人の役に立てることが何よりも嬉しい。そのための努力なら決して惜しまない。
アルマはそんな考えを持つ女だった。
...一重にそう思えるようになったのは、昔、自分自身がある人に救われた経験があるからだ。
どん底から引っ張り上げてくれて、荒んだ心を取り替えてくれた。生き方も教えてくれた。
アルマは今も誰よりもその人を敬愛している。