第3章 波の音が聞こえる
見慣れぬ植物の間をかいくぐっていくと、一つだけ隔離されているハウスがあった。他の植物とは扱いが違うことは一目瞭然だ。
アルマは被せられた暗幕に手をかけ、ハウスへと足を踏み入れた。ロー達も後に続く。
「ここがフロアズルの栽培場所です」
青い光を照明から受けながら、キラキラとした細かな花粉を舞わせる。細い茎に青く小さな花弁をつけ、儚げにも美しく咲くその花こそが、フロアズルであった。
「......すげェな」
ローは思わず感嘆の声を漏らした。
本物のフロアズルは子供の頃本で見たものと同じに見えるが、絵では伝わりきらない美しさがそこにはあった。
僅かしか出回っていないフロアズルがこんなにも咲き誇っているなど、世界中の植物学者が卒倒するレベルの話だ。
「とても美しい花です、フロアズルは...。こんなに小さな花なのに、すごい力を持っているんですから」
アルマは大事そうにフロアズルを見つめた。
この量のフロアズルを栽培することも、そう容易いことではなかったはずだ。一面の青い花から、彼女の努力が見て取れた。
「皆さんは生花でフロアズルを買われますか?」
まだぼんやりとフロアズルに見惚れていたシャチたちは、アルマの声で現実に引き戻された。
「あ、あぁ...うん、そうだな...」
「おい、シャチ。俺たちにフロアズルを加工する技術はねェだろうが」
ローは夢うつつなクルーの言葉を足蹴にした。
「生花で買ってもそれを加工しないと治療には使えねェ。粉末状だったり、液体上だったり、固形物だったりもする。だが俺たちにはそれができねェからな。加工できなきゃ宝の持ち腐れもいいとこだろ」
「た、確かにそうっすね...」
「フロアズルを枯らすなんて、一生悔やみそうっす...」
想像したのか、シャチとペンギンは二人して青ざめた。
バンディド島で手に入らなければ、一生使うことはできないであろうフロアズルだ。そんな勿体無いこと死んでもするものかと、全世界の医者が思うだろう。
「そうですか、でしたら少し日数をいただくことになります。フロアズルは鮮度が命なので、注文が入ってから加工をします。今回は急でしたので用意がないんです...」
申し訳なさそうにするアルマだが、実際押し掛けたのはローたちだ。日にちを要することは厭わない。