第3章 波の音が聞こえる
「俺だ」
「キャプテン!」
受話器の向こうから元気のいい白クマの声が聞こえた。ベポである。
「食料は確保できたか?」
「うん...でも大したものはなかったよ。簡単な保存食は手に入ったけど、肉、魚、野菜系の生物はどこも売ってないんだ...」
ベポは申し訳なさそうに話した。
保存食のみ、となると船上での生活はそれなりにきつくなる。飽きが来るのはもちろんだが、栄養面の偏りも出てくるのだ。そうなっては体調を崩しやすいし航海に影響が出かねない。
だが、頼まれた役目はきちんと遂行するのがハートの海賊団のクルー。恐らく島にある店の全てを見て回ったのだろう。それでもなかったのだから、バンディド島での食料調達は無理という結論になる。
「そうか...分かった。一度合流するぞ、シャチとペンギンも一緒か?」
「アイアイ!島の南側にいるよ、ちょうど船を停めてたあたり」
それを聞くと、ローは手のひらを広げ自身の能力で大きなサークルを張った。
「"ROOM"」
ローを中心に、薄い膜がどんどん広がっていく。
アルマはその様子に目を見開いた。
剣を交えたときにローのサークルは一度目にしていて、その時も驚いたが、これほどの大きさのものも作ることができるとは、予想外だった。バンディド島は小さな島だが、それでも島の約半分を囲むような大きさである。
「すごい...!この中で何ができるんですか?」
好奇心に満ちた目で尋ねるアルマを見て、ローは電々虫の受話器を離して言った。
「なんでもだ。まぁ...見てりゃ分かる」
「キャプテン?誰かいるの?」
ベポにもアルマの声が受話器越し聞こえた。
「あぁ、フロアズルを売る人間だ。すぐ会わしてやるよ」
そうとだけ言うと、ローは左手の中指、人差し指をクイッと動かす。
「シャンブルズ」
次の瞬間、アルマの目の前に3人...いや2人と1匹が現れた。
「えぇっ!」
思わず素っ頓狂な声を出す。
ローしかいなかったはずの目の前に、いきなり人が現れたのだ。
オレンジのつなぎを着た白クマ、キャスケット帽にサングラスをかけた男、PENGUINと書かれた帽子を目深にかぶる男。
現れた瞬間全員見事に尻もちをついて、痛てて...と言いながらそこをさすっている。
.