第3章 波の音が聞こえる
「俺は商人じゃねェ。海賊だ」
「海賊...本当ですか?海賊はもっと屈強な見た目で、もっと凶暴で怖い人かと思ってました...」
ローをまじまじ見つめながら、自身の海賊像と照らし合わせる少女。そんな視線にローはため息をついて答えた。
「お前の考える海賊ってのは一体どんな奴らだ...、世界には色んな人間がいる。型にはまった海賊ってのは、そう多くはねェよ」
確かにローは"屈強な見た目"ではない。男にしては線が細いほうだし、全体的にすらっとした出で立ちだ。
そんなローを見て少女はなんとなく納得したようだった。
「それよりお前、いつまでそこに座り込んでるつもりだ」
「えっ...あ...」
横に刺さっていた鬼哭こそ抜かれているが、少女は未だに岩に背を預けてぺたんと座り込んでいる。気を失った時のままの体勢なのだ。
岩に手をかけ、少女はゆっくりと起き上がった。しっかりと立っても、ローより頭二つ分小さい。せいぜい160cm程度だ。
自分より随分高いところにあるローの目を見上げて、少女は言った。
「あなたにフロアズルを売りましょう。ただ...仙人が私であることは絶対に他言ないでください」
「あぁ...いいだろう。だが名前を教えてくれ。呼び方に困る」
いつまでも"お前"じゃ居心地が悪い。仮にも念願であったフロアズルを買い取る相手だ。名前くらい知っておきたかった。
少女は少し悩む素振りをしてから言った。
「アルマです。あなたは?」
「トラファルガー・ローだ」
「なんだか難しい名前ですね...、なんと呼べば?」
簡潔な自分の名前に対し、発音が微妙に難しいローの名前。それなりに海で名を馳せてきたローの名前くらい知っていそうなものだが、アルマは全くその素振りを見せなかった。
「...好きなように呼べばいい」
「じゃあローさんで」
そう言うとにっこり歯を見せて笑う。本当に屈託のない表情をする女だ、とローはつくづく思った。
とその時。
「プルルル...プルルル...」
ローのポケットから電伝虫の声がした。クルーに事前に配っていた電伝虫の電波をキャッチしたのだ。
ローはそれをポケットから出し、そのまま受話器を取った。
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