第3章 波の音が聞こえる
ローは思わず固まった。
仙人なんて呼ばれているのなら、そもそも性別は男だと思っていたし、老人だとも思っていた。なんなら白い髭さえ生えていそうなものである。
しかし目の前にいるのは少女、それも整った容姿の少女だ。
下から見上げてくる瞳には、不安・恐怖・懐疑などの感情が入り混じり、混乱しているように見える。だがその目はあまりにも純粋だった。
面食らったローは掴んでいた彼女のフードから思わず手を離す。
パサリとそれが少女の顔へかかりまた顔が隠れるが、もう少女は顔を背けようとはせず、まっすぐにローを見上げてこう言った。
「"仙人"というのは...、私のことです」
少女は小さいながらも透き通った声で言葉を紡ぐ。
「あなたに抵抗するつもりはありません。どう足掻いても逃がしてもらえなさそうですし...。
何が目的ですか?お金、ですか...?残念ながら私の所持金はわずかです。渡せるものは...何もありません」
少女は怯えながらも懸命に話した。
「金なんてどうでもいい。俺が欲しいものは別だ。
だがまず、お前みたいなガキが"仙人"とは予想外なんだが...?」
「せ、仙人と呼ばれる所以は私もよく分かりません。気づいたらそう呼ばれてました...」
恐らく、誰も彼女の顔を知らないからそう呼べたのだろう。知っていたらその単語はまず出てこない。
「まぁいい...お前が"仙人"で間違いないんなら、フロアズルを売ってるだろ?」
「...はい」
一見この少女に薬草に対する知識や技量があるとは思えないが、希少なフロアズルを保存できる術を持っているのは確かだ。
「俺の目的はそれだ」
「え!?」
少女は驚いたように声を上げた。
「...何だ」
「その...あなたが商人のようには見えなくて...。私からフロアズルを買われるのは商人のみです。別の島で高値で取引すればいいお金になるそうなんです」
当たり前だ。
世界中の医者たちが一度は本物のフロアズルを手にしたいと思うだろう。医者には金がある。商人からいくら出してでも欲しいという医者は山ほどいるはずだ。
無論ローもその一人だが、海賊でもある。
欲しいものは自分の手で取りに行くのだ。
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