第6章 距離
「あ、ごちそうさまでした!!」
手を引かれながらふたりへと頭を下げると。
何故か青ざめた朱莉ちゃんの姿が視界に入り込んで。
霧生くんだけが、笑顔で手を振ってくれたのでした。
「ねぇ、華」
「はい」
地下駐車場に停めてある車に乗り込んでシートベルトを締めていると。
突然薔さまの掌が顔へと触れた。
「今日は華に選ばせてあげる」
「薔さま?」
「家と、ホテルとどっちがいい?」
「………っ、な、何のお話ですか!?」
ほ、ホテル、って言いました?
今。
「華へのお仕置き。どっちがいい?」
「━━━━━ぇ」
ドクン ドクン ドクン
「薔、さま?」
くるくると、サイドに流したあたしの髪の毛を指先で遊びながら。
薔さまはいつもと変わらぬ笑顔で携帯をダッシュボードへと置くと。
それを再生したのです。
『望月さんなら、来ないよ』
『話がしたかったんだ』
「!!」
これ!!
霧生くんの、声!?
「華、映画は誰と見たの?」
「ぁ、あの……」
震えが、止まらない。
嫌われちゃう。
薔さまとの約束、破ってしまったもの。
駄目だと言われていたのに。
「薔さま……、ぁのあたし、ごめんなさい……っ」
嫌われてしまう……っ。
「華」
「………」
「ホテルと家と、どっちがいい?」
「……っ」
「この時間、家なら使用人もみんなゆっくり休憩しているだろーから、もしかしたら声、聞かれちゃうかもしれないね?」
「……薔、さま」
「どっちがいい?」
「━━━━っ」
まだこんな明るい時間、皆さまにバレてしまったら……。
それにおかあさまにも。
だけど。
だけどあたしからホテルに行きたいなんて言っても良いのでしょうか。
そんなこと恥ずかしくて。
あたしには、口になんて出せません……っ