第6章 距離
「……映画、ですか?」
「そう。日曜日、一緒に行かない?」
ざわざわまだまだ騒がしい朝のHR前。
徐に霧生くんが映画のチケットをくれました。
「だめだよ姫。映画館行ったことないもん、ね?」
「はい」
そのチケットをサっと横取りし、題名を読み上げる朱莉ちゃん。
「いい趣味してんじゃん、これ、今話題のやつ?」
「そうなんですか?」
「待って待って姫月!映画館行ったことないの??」
「?」
大袈裟に、びっくりしたようにあたしと朱莉ちゃんの間に入ってくる霧生くんに首を傾げる。
「はい」
「まじ?」
「姫はいつも地下のシアタールームでしか映画見ないんだよ」
「そんなのあんの?」
「はい」
「相変わらずすっげーのな、世界が違うわ」
「世界、ですか?」
世界、とは、どこの世界をおっしゃっているのかしら。
世界広いですし。
「でもさ、つまんなくないの、それ」
「つまらない、ですか?」
「外の世界、行ってみたいとか思わない?」
「いいえ」
「だってもっと買い物したりとか、甘いの食べたりとかさ、あるじゃんそーゆーの」
「買い物?甘いの?」
「姫はね、バックにこっわーい人がついてるからひとりで出歩けないんだよ」
朱莉ちゃん………。
こっわーい人、って、まさか薔さまじゃありませんよね?
聞いたら絶対、怒りそうです。
「不満とかないの?」
「はい」
洋服でしたら薔さまがあたしのためにたくさん買って来てくださいますし、特別甘いものを食べたいと思ったことはたぶんありません。
「日曜日いつも何してんの?」
日曜日………。
は、だいたい薔さまと一緒、でしょうか。
「諦めな霧生、姫は人混み行かないよ」
「人混み?嫌いなの?」
「はい」
薔さまが、嫌がるから。
極力人がたくさんいるところは行かないようにしています。