第6章 距離
「し、薔さまっ」
「何」
「な、何か、あたし薔さまを怒らせるようなこと、してしまいましたか……?」
無言で華の右手引っ張って来ちゃったから。
たぶん足早に。
華がそう、思うのも仕方ないのかもしれない。
「どうして?」
「ぇ」
「華はどうして、僕が怒ってると思うの?怒らせるようなこと、した?」
「ぃ、えあの……」
怯えたような目をして。
目に涙なんか溜めちゃって。
だけど泣かないように耐えてる姿が、かわいい。
かわいくて。
嗜虐心が沸き起こってくるよ、ほんと。
「ご、めんなさいっ」
「何が?」
「ぇ」
「言わなきゃわかんないよ?こんなとこ、誰かに見られたらまずいよね。早く車乗りたいんだけど」
「あ、ごめんなさい」
「駄目」
助手席のドアへと手を伸ばそうとする華を遮れば。
驚いたように目をおっきくする華。
「薔さま?」
「なんでごめんなさいなの?」
「ぇ」
「言って、なんで僕が怒ってると思うの?」
「………霧生、くん、に、ご迷惑おかけして、しまったか、ら、でしょうか?」
「ハズレ」
「………」
あーあ。
また泣いた。
華の涙は、こーゆー時逆効果。
違うか。
泣かせてるのは、自分なんだから。
もっともっと、泣かせたくなる。
僕だけを想って。
僕だけのために、泣いて、華。
「華」
「……、はい…っ」
「あんまり男の人とふたりきりで話してはいけないよ」
「?どうして?」
「華はかわいいから」
「………?」
「じゃぁ、僕が嫉妬してしまうから」
「嫉妬、ですか?」
「相手の男にやきもち妬いちゃうよ?」
ボン、と。
効果音でも聞こえるくらいに一気に染まっていく華の顔色。