第6章 距離
「……その反応、いつも先生にもこんな風に甘やかされてんの?」
「え」
今の、は。
いったいどんな意味で………。
「華」
コンコン、て。
音がして振り向けば。
「薔さま!」
薄暗がりの中、薔さまが鞄を片手に抱えて立っていた。
「お仕事おわりですか?」
「うん、今日、望月さんは?」
「朱莉ちゃん、今日は用があるらしくて先に帰ってしまわれて。そしたら霧生くんが……」
「『霧生、くん』、ね」
「薔さま?」
「華が遅くまで迷惑おかけしました。ありがとうございます」
「…………いいえ」
あ、れ。
なんかふたり、言葉と態度が合ってないです。
なんで睨み合ってるの??
「!!」
そうだわ。
「霧生くん、迷惑かけてごめんなさいっ。薔さまにも言われていたのに。」
薔さまの横で一気に頭を下げた。
あたしが。
霧生くんに迷惑かけてしまったからきっと、それで怒ってるんだわ。
「薔さま、ごめんなさい」
次いで薔さまへと頭を下げた。
「帰ろう、華」
「はい」
ふわりと、優しく頭を撫でられて頭を上げれば。
すぐに右手が絡まって。
その暖かいぬくもりにとろん、としそうになって大変なことに気付きました、あたし。
「薔さま、手……」
霧生くん、、がまだ。
「大丈夫だよ」
「でも……」
『僕が大丈夫、って言ったら大丈夫』
「あ………」
「ん?」
「ぃ、えなんでもありません。」
そうだ。
これ以上、迷惑かけるわけにはいきません。
薔さまに逆らったら、嫌われてしまうから。
そんなの絶対、嫌。
「…………」
霧生くんの、あたしたちを見つめる視線などもちろん気付くはずもなく。
あたしはただ、薔さまに会わせて薄暗い廊下を歩いて行ったのです。