第4章 転校生
「姫月」
この日を境に。
あたしの平穏な学園生活は終わりを告げたのです。
なんの嫌がらせかわかりませんが、この日から霧生くんは何かとあたしに絡んできます。
教室でも。
廊下でも。
果てはトイレから出た瞬間など。
あらゆる場所に神出鬼没なのです。
「まるでストーカーだね。」
「……ストーカーさまのが良心的です」
「言うね、姫」
「……(ぐすん)」
「でもまぁ、そろそろあの男も黙ってないんじゃない」
「どなたです?」
「ほら、やっぱ来た」
「?」
面白そうにニヤニヤしながら視線を向けた先を一緒に見やれば。
「……!!薔さまっ」
「華」
「どうしたのです?薔さまの授業は今日はなかったはずですが」
「華に会いに来たんだよ。いけなかった?」
「そんな……っ、光栄ですっ」
だって薔さま、いろいろお忙しそうなのに。
あたしなんかのためにこうして時間を割いてくださるなんて。
「華、何か変わったことは、ない?」
「ぇ」
変わった、こと。
「………」
忙しい薔さまに、心配かけるわけには。
足手まといにだけは、なりたくありません。
「いいえ薔さま。大丈夫ですわ」
「……そう」
「?」
一瞬見えた、哀しそうな表情は、見間違いでしょうか。
「ああそうだ華」
「はい」
「放課後、準備室へ来てくれる?資料を纏めるの、手伝ってくれないかな」
「もちろんですっ、薔さま」
「ありがとう、助かるよ」
「はいっ」
『助かるよ』
なんて、素敵な響きかしら。
薔さまの言葉ひとつでこんなにも、心が晴れ晴れとするなんて。
薔さまはあたしの、精神安定剤ですわ。
「………もっと違ういい方、あると思うよ姫」
「ぇ」
「全部、頭の声漏らしすぎ」
「………」
ごめんなさい。
朱莉ちゃん。
心で言葉にするのって、難しい……。