第1章 第一章
小屋は土間と囲炉裏のある小さなものだった
「もう、信長様と馬には乗りません。」
土間に腰を下ろすと顔をしかめて言った
いくら雨が降りだしたとしても、女を前に乗せたまま全力で馬を走らせたのだ
何度か落ちそうになり怖い思いをした
「なら今度は川に置いていくことにしよう」
そう言って外から汲んできた水を の足元に置いた
片膝をついて の脚に付いた泥を水で洗う
「信長様、自分でやります! 信長様の着物が濡れてしまいます」
「かまわん。どうせ雨で濡れておる」
手拭いで優しく脚を拭き取る
言葉は冷たいのに、いつも優しく接してくれる
気が付くといつもその優しさに甘えてばかりだ
「着物を脱げ」
えっ……?
「馬鹿者、何を期待している。濡れた着物を着て風邪をひきたいのか」
「期待なんてしてません! だいたい言葉が一言足りないんです。いつもは一言多いくせに。」
着物を脱いで、竿に掛けて乾かす
襦袢姿になると恥ずかしくて信長様の顔が見れない。俯いたまま黙って居ると竹の皮で包まれたお握りが目の前に出された
「おかずは無いぞ。お前が魚を釣らなかったからな」
「はい、分かってます。ごめんなさい」
申し訳ないのと、恥ずかしさで黙ったままお握りを食べた
なんだか今日の信長様はいつもより優しく感じる
いつも忙しくて二人っきりになれる時間は限られていた
今日はあえて私との逢瀬の為に時間を作ってくれている
そんな気がしてならなかった