第5章 過去の亡霊 R18
2年前のある夜ーー
『遅くなっちゃった。
お母様とお父様怒ってるかな?』
パタパタと着物をはためかせながら
夜道を走る絢迦
この日は習い事であった琴の練習に
つい力が入り遅くなってしまっていた
『(でもやっとあの曲を
弾けるようになったから早く
2人にきかせてあげたいなぁ)』
頭の中で笑顔の2人を思い描き
つい笑顔が溢れ帰路を急ぐ
ガラッ
『ただいま!帰り…ま…した……っ!!』
玄関を入るとすぐにその異変に気づく
辺り一面に飛び散る赤、赤、赤
『なに…これ……』
鼻を刺激する凄まじい血の香り
『おかあさまっ!!
おとうさまっ!!どこ!?』
決して広くはない家
探し人はすぐに見つかった…
暗い部屋を照らす月の光、その中で
今までとは比べものにならない量の
血だまりの中に横たわる2人
そしてその2人を貪り食べている
一つの影
「まだ、残っていたか……」
その影は絢迦に気づくと
ゆっくりとこちらに振り向く
その目は暗闇だというのに
爛々と赤く光っていた
『あっ……お、に?
な、なにしてるの?』
恐怖が絢迦を包み込み
問うその声は震える
「……食べてるんだよ。こいつらは
2人そろって稀血だったから」
振り向いた男の口元はどちらの物か
わからない血がまだ乾いておらず
滴り落ちていた
『まれち?なにを言ってるの?
お母様とお父様から離れてっ!!』
絢迦は髪に挿していた
簪を抜き取ると勇敢にも男に向かって
かけてゆく