第9章 Rise! 〈綾織 星羅〉
「でももう、総帥は…いないんだ…!」
『そうだよ。もう、この世界にはいない。どこを探しても代わりになる人もいない。それは私が身を以て知った』
「…!」
鬼道君は寂しい思いを引っ込めてここまでやってきた。きっと男の子だから泣くなって言われて、きっとそんなに泣けなかったかもしれない。
『ねえ鬼道君。私、鬼道君が病院で私に泣き場所をくれたの、本当に感謝してる。だからね、次は私が鬼道君に泣き場所を与える番だと思うの』
俯いている鬼道君を後ろから抱きしめた。君は、強いよ。此処まで我慢してやってきたんだから。君が私に協力してくれたように、私も君に協力したい。
「もう少し、このままでいてくれないか」
『うん』
どれくらいこのままでいただろうか。なんだか心地いいのは、君だからなのかもしれない。
「有人、いるのか」
ドアの開く音がする。急いで鬼道君から離れた。
「父さん…」
「君が、綾織 星羅さんだね」
『は、はい!』
「君の家族の事については残念だった…。私の方で葬儀を任せて貰いたい。良いだろうか」
『助かります。ありがとうございます』
「それと、私は君の未成年後継人に立候補したいと思っている」
『何から何まで本当にありがとうございます…。何とお礼したら良いのか…』
「その代わり、君にお願いしたい事がある」
『は、はい。私に出来る事なら何でも…』
「君に、鬼道財閥の発展に貢献してほしい」
『つまり…』
「有人と、婚姻を結んで欲しい」
「父さん!」
承知の上だ。何でもする。此処までやってくれるなんて思いもしなかったし、鬼道君と結婚するのも嫌じゃない。寧ろ…ううん。今はまだ、言わない。
『分かりました。約束します』
「お、おい、綾織…」
「なら良かった。こちらからも感謝する」
『いいえ、感謝すべきは私の方です。何から何まで、本当にありがとうございます』
「気にしないでくれ。それじゃあ、葬儀の詳しい事はまた明日」
『はい。お願いします』
婚姻に関して何も思わないのかと聞かれればNOと答える。でも、嫌じゃないし、何もかもやってもらえるなら一石二鳥だ。
「良いのか?綾織」
『うん。だって、鬼道君と結婚するの嫌じゃないし。鬼道君が嫌なら申し訳ないんだけど…』
「い、いや、俺は全然良いんだが、綾織にそう言ってもらえると心が軽くなる」
『そうだ、鬼道君も、ありがとう』