第57章 Enamour!〈綾織 星羅〉
〈side 鬼道 有人〉
試合前にラインが来て、何かと思えば星羅からだった。内容は陣痛が始まったかもしれないという事。まさか、とは思ったが本当になってしまうとは。そして、二つ目のメッセージを見る限り、試合に集中しろという事なのだろう。
「どうしたんだ?キドウ」
『あ、ああ…星羅の陣痛が始まったそうだ』
フィディオが呼びに来たという事はそろそろという事だ。いつまでも悩んではいられない。
「心配…だよな」
『あまり自分の事を大切にしない奴だからな』
「だが、お前がやる事はセイラに勝利を持っていってやる事だ」
『…そうだな』
フィディオのお陰で目が覚めた。そうだ。俺がしっかりしなければ、星羅も不安なままだ。俺が、星羅に勝利を持っていく。
「やるぞ。キドウ」
『ああ』
かつては敵であったフィディオも、今はこうして仲間として戦っている。俺は…チームの司令塔だ。どんな状況でも冷静に判断して仲間を勝利へと導く。
『戦いの始まりだ』
そして眩い光の門を潜った。
『アンジェロ!前線に繋げ!フィディオ!右だ!』
「おっと!キドウ選手!いつもより冴えていますね!未だ無失点であるのは彼の力が大きいでしょう」
「そうですね。二点差を付けています。このまま切り離してしまうかもしれませんね」
自分でも無我夢中だった。チームを勝利に導く為。ただひたすらに、状況を判断し味方へと繋いでいく。星羅が信じてくれているなら、その期待は裏切れない。
「2-0で勝利に追い込みました!」
「流石です!今回のMVPはキドウ選手で間違い無いでしょう」
「しかし、キドウ選手の姿が見えませんね」
「キドウはちょっと用事があってインタビューには出られそうにないんだ。でもMVPはキドウで間違いなしだ!」
フィディオに配慮して貰って、すぐに病院へと向かった。今でも一人で寂しい想いをしているなら、直ぐにでも駆け付けてあげなくては。
「鬼道 星羅の夫だ…!」
「今丁度頑張っておられる所です。行ってあげて下さい」
そのまま星羅の元へ向かう。本当に辛そうだった。こんなに大変な時に、一人でずっと頑張っていたんだ。
「星羅…!」
『ゆ…と君…!』
「旦那様、応援してあげて下さい」
「はい」
『来て…くれたぁ…!』
「勿論だ。勝利もついでに持ってきたぞ」
『全然、ついでじゃないよ…!ありがとう…!』