第57章 Enamour!〈綾織 星羅〉
「はい、鬼道さんですね。此方へどうぞ」
看護婦さんに案内されるままに、個室に連れて来られて、色々な説明を受けた。そして、今の服装から着替えて検査を受けた。
「今日は旦那様はいらっしゃらないんですか?」
『はい…夫は今サッカーの試合で活躍してる頃だと…』
「そうなんですね!」
『でも、終わったら直ぐに着てくれると思うので…大丈夫です』
「それでは、旦那様の為にも頑張りましょうね」
『はい』
ここからが長くなるみたいで、立会人もいないし、寂しいなとは思いつつ、有人君も頑張ってるんだから私も頑張らないとっていう気持ちになる。そうだ、ここで頑張らないで、いつ頑張るんだ私。
『ふぅ…』
取り敢えず入院って事になって、一人でいる訳だけど…こんな時に有人君が居てくれたらなぁって少し弱気になってしまう自分がいる。
「良ければマッサージしましょうか」
『お願いします』
流石看護師さんなだけあって凄くリラックス出来る。その気持ち良さによって段々眠気が襲ってくる。
「陣痛と向き合う時は、リラックスが大事なので、多少ウトウトしても大丈夫ですよ」
『は、はい…』
どうやらもう時刻は16:00になっている。もう試合が始まる時間だ。12:00には陣痛食も貰ったのでお腹は空いていない。
「何かあればナースコールで呼んでくださいね」
『はい』
大丈夫。有人君なら来てくれる。でも、この場合は早産という事になってしまうのかな…。大分有人君にだって迷惑をかけてしまった。けど、有人君は私の事は気にせず、試合に全力で挑んでほしい。私は貴方の勝利を待ってるんだから。
『頑張ってね。有人君。応援してるよ。だから…ちゃんと勝利を貰ってきて』
勝利の女神、ウィクトーリアよ。どうか有人君に力を。笑顔で勝ったって言ってくれますように。試合には行けなかったけど、此処から精一杯応援してるからね。
「失礼します」
『はい』
「陣痛の頻度はどうですか?」
『少し時間が短くなってます』
「まだ大丈夫そうですね」
『はい』
「旦那様の様子は見なくても宜しいんですか?」
『見なくても…分かってますから』
「…そうですね。きっと大丈夫です」
また瞼が重くなってくる。少し寝てようかな。疲れも溜まってるみたいだし。
『少し、寝てても良いですか?』
「ええ」
看護師さんの言葉に安心して、そのまま目を閉じた。