第55章 Suggest!〈朝日奈 乃愛〉
「あ、そう言えばそうだったっけ」
最初にそう言ったんですけど。それでも誘ったのは何処の誰なんでしょう。
『私、ほぼ喋らないから、宜しく』
「え?あぁ…うん」
いや…マジで、人が彼氏居るって言ってんのに無理に誘ってくるのは本当に頭おかしいと思う。何処の自己中なんですかね。
「こんばんは〜」
私は頭だけ下げておいた。極力喋らない。根暗女子を目指す。
「こんばんは、どうぞ座って〜」
もう既に帰りたい。罪悪感に押し潰されそう。
「まずは自己紹介しよっか。俺、雛野 雄介。よろしく」
皆自己紹介し終わって、最後は私。
『朝日奈 乃愛。宜しく』
多分、感じ悪く思われているだろう。そして、サラダも分けないし、何もしない。それが私。
「じゃあ、まずは何の話をしようか…」
話、しなくて良いよ…。って、ん?
『しゅう…や…?』
「え?何か言った」
『あ、いえ、何も…』
修也が…店の前にいる…。しかもめっちゃこっち見てる…!ど、どうしよう…何て言い訳すれば…。そう考えている間に、修也が店に入ってくる。
「乃愛」
『は、はい…』
「行くぞ」
『はい…』
凄い剣幕だった。それはもうとても怒っている様で。
『あ、あのお勘定置いとくから…!』
「ちょ、ちょっと乃愛!」
手を引かれて、家に戻ってきた。本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。
「乃愛。弁解は?」
『と、友達に誘われて…断ったのにしつこいから断りきれなくて…』
「じゃあ、お前が自ら進んで行ったわけでは無いんだな」
『うん。ごめんね…。やっぱり断るべきだった…』
「はぁ…」
『えっと…修也…?』
「嫌われたのかと…」
『そんな訳ないじゃん!嫌いだったら一緒に住んでないよ!』
これだけは必死に弁解させてもらう。嫌いじゃない。寧ろ大好きで大好きで仕方ない位に。
「良かった…」
『ごめんなさい…。次からちゃんと断るから…!』
するといきなり抱き締められた。ちょっと震えてる。やっぱり、凄く不安だったんだ。
「乃愛」
『ん?』
「出掛けるぞ」
『え?今から?』
「腹減っただろ」
『え、うん、まぁ…』
「行くぞ」
急いでまた靴を履いて、修也の隣を歩いた。
『何処に行くの?』
「着いてからのお楽しみだ」
『え〜』
連れてこられたのは雷雷軒。扉を潜ると見覚えのある姿が。
『飛鷹君に響木監督!お久しぶりです』