第51章 Envy!〈朝日奈 乃愛〉
もうサッカー部の練習が終わってる時間。早く学校に行かなきゃ行けないのに。
「少しで良いんです」
『ごめん、これだけは勘弁してほしい』
腕を掴まれた。駄目だ。ここで許したら、次も許してしまう。そんなだらだらとした関係にはなりたくない。
『やめて…!』
「逆にどうして駄目なんですか。あなたの彼氏は…!そんな事気にせずに女の子に纏わりつかれてるじゃないですか!」
「乃愛!」
『気にしてない訳ないじゃん…』
「その手を離せ」
所謂修羅場だった。気にしてない訳ないじゃないか。だって、本人だってすごく申し訳なさそうな顔してる。
「どうして離さなくちゃいけないんですか。あなたの彼女さんはこんなに悩んでるのに」
『別に悩んでなんか…!』
「行くぞ、乃愛」
良く分からなくなってしまった。確かに嫉妬してた。でも、それは覚悟していたから別にどうって事なかったし。
『ごめん…』
連れてこられたのは、小さな公園だった。私と修也と夕香ちゃんが初めて一緒に遊んだ場所。
「乃愛…」
『あはは…ごめんね、変な所見せちゃったね』
「無理に笑わなくて良い」
いつもそうだ。私にそういう時、自分がいつも辛そうな顔をしている。私、修也にそういう顔させることしか出来ないのかな。笑わせる事が…出来ないのかな。
『ごめん』
こういう時に何を言えば良いのか、全く分からなくなった。いつもの自分が分からなくなる。
「話してくれないか」
『ねぇ、修也。私達、別れた方がいいと思うんだ』
「は…」
『ごめん…』
それだけ言ってその場を離れた。何が良いのか、何が悪いのか。そんなの…分かんない…!分かんないんだもん。
「乃愛…!」
逃げるしか能力が無い私には…きっと君には似合わない。君を笑顔にすることすらも出来ない。結局いつも自分第一なんだ。こんな自分、居なくなっちゃえばいいのに。
『大好きだけど…君を笑顔になんて出来ないよ』
久しぶりの河川敷。冬の水辺はこの上なく寒い。寒いなんてもんじゃ無い。凍るわこんなん。
「乃愛」
『あ、アフロディ』
「どうしたんだい。こんな寒い時に」
『ちょっと自分を責めてた』
「そうか…」
静かに隣に座ってくる所を見ると、少し相手になってくれるみたいだ。
『私、思ったんだ。私じゃ、修也を笑顔には出来ないって。いつも修也の辛い顔しか見てない気がしてさ…』