第51章 Envy!〈朝日奈 乃愛〉
そういえばもうじきクリスマスだなぁ。去年は丁度アメリカに帰省してて25日の夜に帰ってきたんだっけ。あんまりにも修也を待たせすぎて肩に雪積もってたな。
「えー、notとwithout同じ文中で使うと、古文で言うなきにしもあらずってやつだな。ない訳でもないって意味だ。覚えとけよー」
蛍光ペンでスラーッとnotとwithoutに線を引いていく。コミュニケーション英語は好きだけど、英語表現は好きじゃない。
「じゃあ次、朝日奈ー。訳、よろしく」
『はい。経済学者の中には、それは事実だと考える人もいます』
「はーい、おけーい。間違っても何人かのって訳すなよー」
一体何回聞いたのか、忠告の言葉を聞き流してノートにちょこちょこと書いて行く。今度は授業が終わるチャイムが鳴った。金曜日のこの時間帯が何気一番辛い。
「乃愛ちゃん、日直」
『うわっ…そうだった!ありがと!』
同じ日直の男の子に言われて慌てて席を立った。
「やっておいたよ」
『ほんっとうにごめん!次私やるから!』
「ううん。いつもやってくれてるから、せめて今回だけでもやろうと思って」
『本当、ありがとう。次はちゃんとやるね』
ため息を吐きながらもう一度席に着いた。忘れない様に頭の中に入れておかないとすぐに忘れてしまう。
「そういえば乃愛、彼氏にクリスマスプレゼント何送るの?」
『そういえば…』
「うわ…絶対準備してなかったでしょ。あと一週間だよ?どうすんの?」
全く決めてなかった。前回はアメリカのお土産にしたけど…。今年はどうしようかなぁ。
「手編みのマフラーとかは?」
『明らかに時間が足りないし、バレる』
「ああ…。それじゃあ、何かあげるしかないのか」
『うーん、今日の放課後にでも寄ってこうかな』
「部活は?」
『今日無い』
「行ってらー」
『え、一緒行こうよ』
「うち今日部活あるからさー」
『そっか、頑張れ』
プレゼントか…。何が良いかな。手編みじゃなくても、買ったマフラーとかだったら悪くないのかもしれない。真っ赤なあったかいマフラー…良いかも。そういうの探してみようかな。
「起立、礼」
帰りのSHRが終わった瞬間にコートを着て学校を出る。修也は部活だから、多分今日選んでいる事はバレないだろうと信じたい。
『やっぱ、クリスマスが近いだけに人も多いなぁ』
誰に言うでもなく呟いた。