第45章 FFHI Ⅷ〈Girls〉
キャラバンに乗り込む。有人君から差し出される手に優しく自分の手を添えて階段を一段ずつ登っていく。
「前のベージュも良かったが、その緑のドレスも良く似合っている」
『ありがとう。緑、好きなの。緑って命とか自然とか、そういう色でしょ?』
「そうか。良い事を聞いたな」
『え?』
「もうすぐ誕生日だろう」
『え、覚えててくれたの?』
「当たり前だ」
有人君の誕生日は4月14日。その時はまだてんやわんやしてて祝ってあげられなかったし、それにまだ有人君の事全然知らなかった。来年こそはって思ってたけど、来年も無理そう…。
『そっか…。私誕生日なんて言った事なかったのに』
「気付いていないのか?」
『え?』
「ラインのプロフィールに書いてあるぞ」
『あ、そっか…!忘れてた…!』
「お前らしいな。肝心な所で少し抜ける所が」
『これでもうっかりやっちゃわない様に気を付けてるんだけどなぁ…』
「人間には完全なんて無いからな。お前位で丁度いい」
『そしたら有人君はどうなの?有人君、言うこと無しだよ?』
消しゴムとかうっかり忘れちゃった時に、二個ある内の一個貸してくれるし。なんて言ったらわかんない時とかいろいろフォローしてくれるし。
「そうだな…俺だって偶に取り乱す時くらいあるぞ」
確かに、この前私が次に住む家に泊まろうとした時、慌てた表情だった。というか実際焦ってた。あんな表情をもう二度とさせたく無いけど…。
『確かに…そうかもね…』
「どうかしたか?」
『ううん。あ、着いたみたい、行こっか』
キャラバンを降りてからは有人君と別れて、色んな人とお喋りした。そろそろ疲れてきたし、ちょっと休もうかと思った瞬間だった。
「楽しそうですわね」
『っ…!』
「訴えるつもりでして?」
『どうしてっ…それを…!』
「さぁ…どうしてかしら。なら、条件を付け加えるわ。これ以上、貴方があの人と結婚するつもりなら、貴方のお友達はどうなるのかしらね」
『そんなっ…!』
この人、知ってるんだ。前に皆に迷惑かけた事…!私、これ以上皆に迷惑かけるわけにはいかないよ…。ただでさえ皆注意してなかったら死んでたのに。
「それじゃあね?良い返事を規定しているわ、綾織さん?」
こんな事言われたら、もう断る以外に道なんて残ってない。今迄十分幸せだった。それで良い事にしよう。夢だったと思えれば、それで。