第45章 FFHI Ⅷ〈Girls〉
「星羅…どこだ?」
有人君の声だ。もう少し待って欲しい。もう少しでいつもの自分に戻れる。
『なんでっ…こんなに、好きなのに…』
痛いくらいに拳を握りしめた。少し伸びた爪が皮膚に刺さる。痛いなんて、感じなかった。
「星羅、此処にいたのか」
もう、泣かない。君が私を見つけたら笑顔になると決めていたんだ。どれだけこの状況を悔やんだとしても変えられないのなら、乗り越えていくしか無い。
『うん、ちょっと人酔いしちゃって』
「そうか、もうそろそろ帰るそうだ。行くぞ」
『うん』
もう一度君の手に私の手を重ねる。無理に微笑んで、またゆっくりと階段を上る。君は、知らない。私の中に眠る「ドス黒い何か」を。
「星羅、怪我をしているぞ。何かしたのか?」
『あ、あぁ…それ、紙で切っちゃって…』
「そうか、暫く絆創膏を貼っておけ。何もしないとバイ菌が入るぞ」
『うん。ありがとう』
キャラバンに乗り込んで、ジャパンエリアの宿舎に帰る。地下の更衣室で着替えて部屋着に戻った。着いた瞬間にへたり込む。自分の手を見ると確かに痛々しい傷痕が刻まれていた。
「星羅、いるか」
『あ、うん』
急いで移動して机の脇に座った。
「絆創膏を持ってきたぞ」
『あ、ありがとう…ん』
「隠しても無駄だ」
『え…?』
「何か悩んでいるだろう。明らかに顔に出てるぞ。お前は作り笑顔が苦手だからな」
『そっかぁ…』
そんなに顔に出やすかったんだ…。やっぱりダメだな。
「話せない事か?」
『…うん。ごめんね』
「そうか…」
『でも、有人君の事信用してないわけじゃ無いし、寧ろ大好きだから…だから言いたくない』
「あの事か」
『ごめんね。好きなのに、こんな事ばっかりで…。私、有人君に何も返せてない…!』
「お前は本当に何も分かってない」
『え?』
「俺はお前に沢山の物を貰っている。俺の方が返しきれないくらい、大きな物を」
自分からゴーグルを外して笑いかけてくれる君の笑顔はこんなにも眩しかった。
『大好きだから、大好きで、傷つけたく無いし、迷惑かけたく無い』
「それは俺も同じだ」
笑い合って、自然と唇が重なる。君に思って貰えるだけでこんなに胸が温かくなる。
『応援してるから。絶対、勝ってね』
「勿論だ」
もし、これが最後だとしても、一分一秒を悔いなく過ごせば、きっと悔いなんて無い。だから、大丈夫。