第42章 FFHI Ⅵ〈綾織 星羅〉
お風呂も沸いたみたいだし、早めにお風呂に入って寝よう。こんなに大きな窓…有人君のお家でもあんまり見なかったような…。
『月…綺麗…』
「失礼します。お嬢様。有人様がお越しになった様ですが」
え…どうして有人君が…。此処は有人君には知られていないはずなのに。
『通して下さい』
「承知いたしました」
暫く経った後に有人君が入ってきた。もう、覚悟は決まっていた。何時でも伝えられる様に心構えはしてきたつもりだ。
「どうして、こんな所に居るんだ」
『鬼道家から、全部荷物を移してきたの。FFHIが終われば此処に一人で住むことになっていたから』
「どうして…」
『もう…終わりだよ。有人君。私達の関係は全て終わったの』
「何を言ってるんだ…!」
『私はもう…有人君の婚約者じゃない。新しい婚約者と幸せになってね』
「俺は…!お前以外と幸せになんか…」
『もう、無理な話だよ』
一度も振り返らなかった。有人君を見たら、泣いてしまいそうだったから。ただ、空に輝く月だけを見ている他無かった。
「どうして…どうして此方を見てくれないんだ」
『…』
見れないよ。見たら戻れなくなるって分かってるから。
「星羅…」
手を掴まれた。つい振り返ってしまう。涙が…出てきてしまう。引っ込んで。引っ込んでよ。
『泣かないつもりだったのに…』
「お前は…何も抵抗せずに俺との婚約を破棄したのか…!」
違う…。私は、誰よりも君の事を想ってる。出来るものなら抵抗したかった。けれど…無理だった。でも、此処で私が違うと言えば、君は新しい婚約者の前で悲しい顔しちゃうでしょ?
『…そうだよ』
「っ…!」
『もう…君の事なんか…好きじゃない…!…帰って…』
「星羅…」
『帰って…!』
手を振り払ってしまった。溢れる涙が止まらない。こんなんじゃ、説得力ない…よね…。
「お前は本当に嘘が下手だな」
『違うもん…これは…!』
「なら、何故泣いているんだ」
『それは…』
「大方、あの日父さんに呼び出されて会社の命運が掛かってるから婚約者を降りてくれとでも言われたんだろう」
『なんでわかって…あっ…』
「図星だな。我が父ながら本当に身勝手だ」
目元を拭ってくれた。ああ、やっぱり好きだ。好きだからこんなに涙が出ちゃうんだ。
「お前が何と言おうと、俺はお前しか愛さない」
『でもそれじゃあ…』