第42章 FFHI Ⅵ〈綾織 星羅〉
ちゃんとした鍵があるって事は取り敢えず荒屋みたいな所ではないと思うんだけど。
「お嬢様、お乗り下さい」
『はい。こんな遅くにすみません。お願いします』
「いえいえ!それでは参ります。準備は宜しいですか?」
『はい』
「…お嬢様は、良いのですか?」
『え…?』
「有人様はきっとお嬢様が居なくなれば悲しみますよ」
『私にはどうにも出来ません。私一人のわがままで沢山の人の生活を脅かす訳にはいきませんから』
本当はずっと一緒にいたい。これからもずっと。
『私だって…一緒に居たいです。でも、出来ない…』
「お嬢様…私めには何も出来ないことを御許し下さい」
『いいえ。いつもお世話になっているんです。これ以上仕事を押し付ける訳にはいきませんよ』
鬼道家に支えてくれている人は皆心優しい人ばかりだ。だからこそ、こんなに長く此処にいられるのかもしれない。
「着きました。お帰りの際はまたお申し付けください。真っ直ぐ合宿場に送っていきますので」
『分かりました』
車から出ると、驚きの光景だった。一人で住むのには余りにも大き過ぎる豪邸。しかもプール付き。
『え…』
「お待ちしておりました。お嬢様」
『は、はい』
「荷物をお運びいたします」
『ありがとうございます』
まずは部屋に案内された。幾らなんでも広過ぎる。普通に鬼道家よりも大きいし…。こんな豪邸、いったいどうやって住めと…。しかも使用人でさえ2、3人しかいないのに。
「こちらがお嬢様のお部屋です」
『はい』
「そして、この部屋から右に曲がった突き当たりが食堂となっております」
『分かりました』
「そして、浴室はこのお部屋の右隣りにあります。是非ご活用下さいませ」
『分かりました』
こんな広い所に一人で住むなんて。やっぱり寂しくなりそう。どうしようかな。慣れって事で、今日一日此処に泊まろうかな。
「今夜、此処に泊まられるのであれば、取り急ぎ用意しますが」
『では、お願いします』
「分かりました」
監督と運転手さんには電話で伝えておこう。
〈星羅、どこにいるんだ〉
有人君からのラインだ。ごめんね。今は言えない。未読のままにして、スマホをベッドに放り投げた。
〈星羅ー!一緒にお風呂入ろー!どこにいるのー!鬼道君も探してるよー!〉
乃愛ちゃん…。ごめん、今日は無理だ。申し訳ないけど未読のままにしておこう。