第42章 FFHI Ⅵ〈綾織 星羅〉
叫び声が聞こえた瞬間に、物陰から寮に戻っていた筈の選手がいた。え、聞こえて…た?
「もう十分バレているんだが」
『あはは…』
「いや、あの鬼道が一人の女にご執心って聞いたからよ。気になってな…」
「まぁ、間違ってはいないな」
「何だよ惚気かよ。なぁ?」
「俺はもう彼女はいる」
「は?」
南雲君の顔が青ざめている。完全に聞く人間違ってるよ…。
「お前…裏切り者だったのか…!」
「まぁまぁ…晴矢もその内…」
「ヒロト!お前だけには言われたくねぇ!」
まぁ…基山君、瑠璃ちゃんっていう彼女がいるもんなぁ…。
「つーことは…お前ら三人全員彼女持ちって訳か!」
「そういう事になるね」
「まじかよ…」
ああ…南雲君が遂に石化しちゃった。完全に人選ミスです。南雲君。
『大丈夫…かな…?』
「その内石化も解けるだろう」
『あはは…皆、戻ろうか…』
寮に戻って自分の部屋に戻った。ジャージを脱いだ時にコンコンとノックの音が聞こえた。
「星羅、入るぞ」
『ま、ままままままって!』
「す、すまな…い」
フリーズ…してる。いや、もうそういう事やってるのに恥ずかしがらなくて良いんじゃ…。
『あ、あの、取り敢えず中に入って良いから、扉、閉めて欲しいんだけど…』
「あ、ああ…」
『どうかしたの?』
「いや…」
『何かあった?』
不安そうな顔してる。何か悩んでいるのかな。
「いや、このまま俺が司令塔で良いのか…と思ったんだ」
『どうして?』
「不動の方が明らかに向いている。俺は、サウジアラビア戦で戦術を提案していない。後半から本気の真剣勝負になったが結局案を出したのは不動だった」
『有人君はきっと拘りすぎて、プレッシャーに押されてる。色んな重圧に潰されて思うようにプレー出来ない。違う?』
「それは…」
『全部忘れろ、とは言わない。だけど、プレッシャーに勝ってこその有人君だと思うの。有人君は何の為にサッカーをするの?将来の為?内申書の為?』
「違う…!俺は、サッカーが好きだからだ…!」
『そうだよ。その気持ち、忘れてない?自分の役割の事だけ気にしてもきっとサッカー楽しく無いよ』
「初心を忘れていたのかもしれないな。俺は…」
有人君、珍しいな。相談してくれるなんて。其れ程私を信用してくれてる証拠なんだと思う。近付いてゴーグルを外してみた。何時もの赤い綺麗な瞳。