第40章 FFHI Ⅴ〈綾織 星羅〉
「星羅。奥の席で待っているぞ」
『うん…』
最近はずっと有人君と一緒に食べてるけど、会話の内容とか正直覚えてない。どんな風に話していたのかも、思い出せない。
「星羅、終わった?」
『あ、うん、大丈夫』
自分の分の食事を持って有人君の向かいの席に座った。
「マネージャーも大変だな」
『あはは…』
どんな風に話そうか。どうやって言葉を紡ごうか。考えていると手も止まってしまう。
「どうかしたのか。元気がないな」
『あっ、え、そう…?何でも無いよ…』
「目が腫れているが、泣いたのか…?誰かに何か…」
『ち、違うの…誰にも何もされてないから…!私は大丈夫…!』
無理に笑顔を作ってるって言う自覚はある。上手く笑えているかは分からない。どうして、こんなに胸に突っかかるの。
「星羅」
『あ、次郎君。どうかしたの?』
「いや、話したの久しぶりだと思ったんだ」
「二人は幼馴染だったな」
「今やお前が婚約者だけどな」
ああ、こう言う時に限って。駄目、笑わなくちゃ。選手に悲しんだ顔を見せる事は仕事じゃない。笑う事が仕事なんだ。
「そうだな」
『ごめんね。マネージャーの仕事あるから、これで…』
「全然食べてないだろ。もう良いのか?」
『うん、あまりお腹空いてないし…それじゃ…』
どうすれば良いのか分からなくなって席を立った。逃げた…のかもしれない。その方が楽だから。でも、これじゃあ昔の私と変わらない。
「おい」
『は、はい!』
「落としたぞ」
『あ、ありがとう…』
手渡されたのはハンカチ。良かった。気付かないまま行っちゃうところだった。この特徴的な髪型は…飛鷹君?
「あとはもう一つ」
『え?』
「余裕だ」
『余裕…』
「切羽詰まってる時こそ、一歩引いて冷静に考えてみる事も良いかもしれないぜ」
『一歩引いて…ありがとう!飛鷹君…!』
「お、おう…」
確かに、自分の事しか考えてなかった。焦ってどうしようどうしようって。どうしようって考えてたって如何にもならないんだ。クヨクヨしてたってしょうがない。前を向くんだ。何があったって。私は…変わりたい!
「星羅ー!行くよー!」
『うん!』
答えは結局見つからなかったけど、それでも何だかスッキリしてる。一回落ち着いて正解だった。これで周りを見れる様になった。
「午後の練習を開始する!」
午前中よりテキパキ動けてるかも。