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Break! 【イナズマイレブン】

第40章 FFHI Ⅴ〈綾織 星羅〉


『うん。ごめんね。すぐ行くから。先に行っててくれる?』
「分かった」

涙を拭って、冷水で顔を洗った。二月の水は本当に冷たい。だからこそこんな沈んだ気持ちを切り替えさせてくれる。

『よし…頑張ろう』

頬を二回強めに叩いた。大丈夫。ちゃんとやれる。

『すみません。遅れました』
「構わない。入れ」
『はい』

一例してグラウンドに足を踏み入れた。吐く息が白い。私もこんな風に何も考えず真っ白でいられたら良かったのに。

『ごめんね、椿姫ちゃん。大変だったでしょ』
「ううん。まだ始まったばかりだから大丈夫」

バインダーを持ち直してまた選手のデータを書き込み始める。暫くすればお昼の時間になり、一時休憩になった。

「星羅、何かあったのか」
『え、ううん、別に…』
「そうか…何か手伝える事はあるか?」
『大丈夫。重いのはないから』

何処か寂しそうな顔をして去っていく有人君に申し訳ない気持ちもあった。でも、見る度に思い出してしまうから。

「星羅ちゃん…お部屋にお邪魔して良い?」
『うん…』

椿姫ちゃんを自室に招き入れて、聞いてもらう事にした。椿姫ちゃんは口は堅いタイプだから多分大丈夫。

「それで…星羅ちゃんの悩んでいる事って…」
『あのね、有人君とは婚約者って聞いてたと思うけど…解消、されたの』
「え…」
『もともと婚約をしていた方が婚約しなければ会社を潰すとまで言ってきたらしくて…』
「それって…脅しじゃ…!」
『仕方ないの。私は、相手に勝てる様な財力を持っているわけでもないし、何より、会社を潰されてしまうなら、私一人の意見でわがまま言う訳にはいかないよ』
「…」

そう、どれだけ想いが通っていようが、大事に思っていようが、如何にもならない時だってあるんだから。

『聞いてくれて、ありがとね。私、マネージャーの仕事あるからそろそろ行かなきゃ』
「うん…」

もう諦めなきゃいけない。この気持ちに、区切りを付けよう。最後に身体を重ねる事は叶わなかったけれど、それでも。

「星羅、おっそーい!」
『ごめんごめん。今から準備する!』

慌ててお玉を握った。まだ選手が来てなくて助かった。

「今日のメニューは…おっ!肉かぁ!」

元気に飛び込んで来る姿を見ると、ああ、良いなぁって思える。こうやって選手の笑顔を見れる事が何より嬉しい。自分も頑張ろうって素直に思える。
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