第5章 Light! 〈朝日奈 乃愛〉
聞こえてないよね?良いんだ。聞こえてない方が、都合がいい。だって聞かれたら、今の関係が壊れてしまいそうだから。
「ん…」
『あ、起きた?』
「ん、あ、ああ」
『疲れてたんだね。寝ちゃってたよ』
「ああ、悪い。夕香」
『ぐっすりだね…』
「遅くまで付き合わせて悪いな。送っていく」
『え、良いよ!夕香ちゃんいるし!』
「いや、こんな遅くだと危ないからな」
『ありがと』
豪炎寺は夕香ちゃんをおぶって歩き出した。そういう所を見ると、やっぱりお兄さんだなって思う。良いなぁ、兄妹って。私にはそういうのは居ないからなぁ。瑠璃の妹と弟達の世話ならしたことあるけど。
『夕香ちゃん、可愛いね。兄妹良いなぁ』
「そうだな。たった一人の妹だからな」
『私は一人っ子だから、羨ましいよ』
「遊びに来るか?」
『え、良いの⁉︎』
「ああ、夕香も俺が帰ってくるまでは一人だからな。余裕がある時は遊んでやってくれ」
『うん!』
そっか…。夕香ちゃんとまた遊べるのか。楽しみだなぁ。
「サッカー部は日曜日は休みらしいんだ。部活動編成は金曜日だから、金曜日以降は俺は正式に明電高校のサッカー部になる。つまり日曜日には空きがある」
『その日に遊びに行って良いの⁉︎親御さんは?』
「俺の父さんは医者だから、大体病院に居ることが多いんだ」
『えっ…そうなんだ』
初めて知った…。こんな才能持ってるからお父さんとかもサッカー選手だと思ったけど…。彼独自の才能なのかもしれない。
「日曜日、迎えに行く」
『ありがとう。待ってるよ』
「それと、お前の歌、凄く綺麗だった」
待って…聞こえてたの…⁉︎絶対聞こえてないと思ってたのに。恥ずかしい…。ど直球な告白ソングじゃなくて良かった…。
『き、聞こえてたんだ…』
「ああ。俺の好きな声だ」
顔に熱が集まる。そんな期待させるような事言っちゃダメだって。勘違いしちゃうし!
『あ、ありがと!あたしここだから!』
「パウンドケーキ、美味しかった」
ドアを閉める直前に聞こえた言葉は、私の思考回路をショートさせるのに十分な言葉だった。
『無理…カッコ良すぎ…!』
玄関のドアの前に蹲る。無理だって、褒め言葉二回連続で言われても保たないし!明日からどんな顔して会えば良いわけ…?片思い…辛い…。別の意味で。褒め殺し良くない良くない。何も出てこないから!