第37章 FFHI III〈綾織 星羅〉
話している内に家に着いた。着替えて夕食を食べに行こう。
「また後から行く」
『うん。待ってるね』
部屋に戻って鞄を棚の上に置いた。横には両親の写真が飾られている。
『お父さん、お母さん。ただいま』
毎日、行ってきますとただいまはこうして写真に挨拶している。両親が亡くなった日、その日は心も憔悴しきっていた。有人君がいなければ私は壊れたままだった。
『お父さん、お母さん。今日はイナズマジャパンの代表選考試合だったんだよ。有人君も選ばれたの。後はね、発表もちゃんと出来たんだよ』
毎日こうして伝えては、自分の中で勝手に満足している。でも、思ってしまうのだ。あの日、隣にいたのが有人君じゃ無ければ、私は有人君に恋をしていなかったのかもしれない。
『運命って凄いね。今こうして一緒にいられるのが夢みたいなの』
それでも、今では隣にいるのが有人君で良かったと心の底から思っている。きっとこれから君しか愛す事は出来ないと思う程に君に夢中だから。
「星羅。準備はできたか?」
大好きな人の声がドア越しに聞こえた。やっぱり、君で良かった。君以外は私には考えられないよ。
『うん。今行く』
ドアを開けて一緒に食堂に向かった。今日は選抜メンバーに選ばれた記念としていつもよりちょっと豪華な夕食だった。
「星羅」
『なんでしょう、お父様』
「後で話があるんだ。私の部屋に来てくれ」
『はい』
話って何なんだろう。それでも、お祝いだから笑顔でいる事にする。だって、記念すべき日だもの。
「有人。選抜メンバー入りおめでとう」
「ありがとうございます。父さん」
二人は血の繋がっていない親子と聞いたが、とても仲の良い家族だ。有人君もお父さんに対して遠慮はしていない。言葉遣いには気を遣っているみたいだけど。
「星羅も、これからマネージャーとして頑張ってくれ」
『はい。勿論です』
それからは楽しい話をして、いつも以上に食卓が盛り上がっていた。お父さんも楽しそうで良かった。天才ゲームメーカーと言いながらも中身はかなり優しい人だ。
『ご馳走様でした』
「料理は気に入ってくれたか?」
『はい、とても美味しかったです』
椅子から立って、先に部屋へ戻った。二人での積もる話もあるだろうって事で、二人だけにした。あとは、これからお父さんとの話をする訳だけど、何があるんだろう…。